・・・そこで取次ぎに出て来た小厮に、ともかくも黄一峯の秋山図を拝見したいという、遠来の意を伝えた後、思白先生が書いてくれた紹介状を渡しました。 すると間もなく煙客翁は、庁堂へ案内されました。ここも紫檀の椅子机が、清らかに並べてありながら、冷た・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・東京ならば牛鍋屋か鰻屋ででもなければ見られない茶ぶだいなるものの前に座を設けられた予は、岡村は暢気だから、未だ気が若いから、遠来の客の感情を傷うた事も心づかずにこんな事をするのだ、悪気があっての事ではないと、吾れ自ら頻りに解釈して居るものの・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・また昔は、晩酌の最中にひょっこり遠来の友など見えると、やあ、これはいいところへ来て下さった、ちょうど相手が欲しくてならなかったところだ、何も無いが、まあどうです、一ぱい、というような事になって、とみに活気を呈したものであったが、今は、はなは・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・不思議なことには外国から遠来の飛行機が霞が浦へ着くという日にはきまって日本のどこかで飛行機が墜落することになっているような気がする。遠来の客へのコンプリメントででもあるかのように。 とんぼやからすが飛行中に機関の故障を起こして墜落すると・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・不思議なことには外国から遠来の飛行機が霞ヶ浦へ着くという日にはきまって日本のどこかで飛行機が墜落することになっているような気がする。遠来の客へのコンプリメントででもあるかのように。 蜻蛉や鴉が飛行中に機関の故障を起して墜落するという話は・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ それはとにかく、自分らの教室にとっては誠に思いがけない遠来の珍客なので、自分は急いで教室主任のN教授やT老教授にもその来訪を知らせ引き合わせをしたのであったが、両先生ともにいずれも全然予期していなかったこの碩学の来訪に驚きもしまた喜ば・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
出典:青空文庫