・・・でも、負けたって犬がやられるだけで、自分に怪我はない。利害関係のない者は、面白がって見物している。犬こそいい面の皮だ。 黒島伝治 「戦争について」
・・・「露西亜語なんか分らなくったっていゝや、――親爺のあとを継いで行きゃ、食いっぱぐれはないんだ、いつなんどきパルチザンにやられるかも知れないシベリアなんぞ、もうあき/\しちゃった。」 二人だけは帰って行く者の仲間から除外されて、待合室・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ むきになって理屈を言ってる鼻の先へもって来てポペンポペンとやられると、あらゆる論理や哲学などが一ぺんに吹き散らされるところに妙味があったようにも思われる。 六 干支の効用 去年が「甲戌」すなわち「木の兄の犬・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・一度鉛筆で直したのを、あとで、インキでちゃんと書き入れて、そうして最後に消しゴムですっかり鉛筆を消し取って、そのちりを払うことまで先生がやられるので、こっちではかえってすっかり恐縮してしまって、「私やりますから」と言っても、平気ですみからす・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・「それから例のがやられる」「気の毒な、もうやるか、可愛相にのう」といえば、「気の毒じゃが仕方がないわ」と真黒な天井を見て嘯く。 たちまち窖も首斬りもカンテラも一度に消えて余はボーシャン塔の真中に茫然と佇んでいる。ふと気がついて見ると傍に・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・もういいや、どうせ僕なんか噴火か洪水か風かにやられるにきまってるんだ」「あら、ちがいますわ」「そんならどうですどうです、どうです」「あたし、もう大昔からあなたのことばかり考えていましたわ」「本当ですか、本当ですか、本当ですか・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ひとの顔さえ見ると何より先にきょとついて、はい、はいとやられると――参るよ」 さほ子も段々笑い出した。そして、良人の意見に賛成して散々気の毒な老女のぽんち姿を描いて笑い興じた。けれども、笑うだけ笑って仕舞うと、彼女は、足をぶらぶら振るの・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・それだとすると三人の同志たちは何によって同伴者的作家であるということを念頭においてのそのなぐりつけがやられるかのように誤認したのであろう。 これらの人々が、もし作品にあらわれた右翼的危険との闘争を一般同伴者的作家への突撃であるという風に・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・春になって寒いモスクワの公園の樹々が緑になると、あっちこっちの音楽堂で、盛んに音楽がやられる。どんな連中が演奏しているかと見ると、鳥打帽をかぶったままの労働者音楽団です。 メーデーのデモには、各工場が自分たちの音楽団を先頭に立て、勇まし・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の音楽サークルの話」
出典:青空文庫