・・・しかし多分子的現象に遭遇して止むを得ず統計的の理論を導入した。統計的現象の存在は永久的の事実である。 決定的あるいは統計的の予報が可能であるとした場合に、その効果如何という事は別問題である。今ここにこのデリケートな問題を論じる事は困難で・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・それは、全身にいろいろの刺青を施した数名の壮漢が大きな浴室の中に言葉どおりに異彩を放っていたという生来初めて見た光景に遭遇したのであった。いわゆる倶梨伽羅紋々ふうのものもあったが、そのほかにまたたとえば天狗の面やおかめの面やさいころや、それ・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・そうして時々ちょっとしたスキルラやカリブディスに遭遇しても大抵は無事に通過してしまう。最後に私の頭に残った日本画部全体の印象は、干からびた灰色の、無秩序な些細な抑揚の交錯であある。 批評でも書いてみようという成心を持っていない、通り一遍・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。そして現在も決して偏見がとりのぞかれたとはいえない。松本治一郎氏の天皇制に対するたたかいとパージがよくその消息を告げている。 今日の大学は、どのようなアカデミアであ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ 女性そのものの成長のそのような願いは激しく、しかも実に極々のむずかしさに遭遇していて、その表現としての文学作品にさえ、現代の婦人の生きる姿に蒙らされている何かの傷痕が見えている有様である。 子供のための本を書く女性というものの出現・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・ ここで私たちは誠に興味深い現象に遭遇した。能動的精神といい、ヒューマニズムといい、それぞれ熱心に討論されたのではあったろうが、社会全般の中で見ればやはり文壇をめぐっての抽象的な専門家間の論議に終っていたことである。この一二年来、日本の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 遭遇の場面○新響のかえり。銀座。男二人女一人 アラ! ああやっと見つけたという工合だわ アミノ と。◎若松に入ってゆく、奥へゆく。右手に若い男二人こっち側、あっち側に緑郎鶴「いとこさんがい・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・ 満州事変以来四年を経て、その年は日本の文化が新たに遭遇しなければならないめぐり合わせについて、美濃部達吉博士の問題その他をめぐって、一層痛切に感じられた時でもあった。文化の擁護、知識の健全性の防衛と云う一般の要求が能動精神の提唱される・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・歴史においては、初め手を下すことを予期せぬ境であったのに、経歴と遭遇とが人のために伝記を作らしむるに至った。そしてその体裁をして荒涼なるジェネアロジックの方向を取らしめたのは、あるいはかのゾラにルゴン・マカアルの血統を追尋させた自然科学の余・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・「わたくしの職業にも同じ必要に遭遇することはあるのです。しかしマドモアセユのために不愉快でしょう。」「そうですか。十五分か二十分で済みますから、あそこの書籍室へでも行っていて下さい。葉巻でもつけて。」ロダンは一方の戸口を指ざした。・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫