・・・ いくら資本主義の統治下にあって、鰹節のような役目を勤める、プロレタリアであったにしても、職業を選択する権利丈けは与えられているじゃないか。 待って呉れ! お前は、「それゃ表面のこった、そんなもんじゃないや、坊ちゃん奴」と云おうとし・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・は、現実の問題として、階級対立の社会にあっては支配階級のイデオロギーの侵害を多く受けているものであり、特に日本のように封建性の重いきずなが男女を圧しているところでは、女の性的受動性、男に対する自主的な選択権が隷属的に考えられる習俗をもってい・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・なぜなら、そこに、人間的な選択、完全な結合、愛、同感、互の運命への責任等がぬかれているのだから。 人間を動物的に低める性的誇張は、ファシズムの一つの方法です。ナチスが青年男女を「わが陣営」にひきつけるためにとった方法は、いわゆる性の解放・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 私たち女は一年間に自分の希望と選択とによってここまで変転して来たのだろうか。この答えは複雑である。しかし社会事情の急調な動きは一つの必然として、自覚するとしないとにかかわらず、今日の婦人全体を新しい生活事情に導き入れており、そこではよ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・そこで木村の書くものにも情調がない、木村の選択に与っている雑誌の作品にも情調がないと云うのは、木村に文芸が分からないと云うのである。文芸の分からないものに、なんで脚本を選ばせるのだろう。情調のない脚本が当選したら、どうするだろう。そんな事を・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・倅仲平が学問修行も一通り出来て、来年は三十になろうという年になったので、ぜひよめを取ってやりたいとは思うが、その選択のむずかしいことには十分気がついている。 背こそ仲平ほど低くないが、自分も痘痕があり、片目であった翁は、異性に対する苦い・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・書物の選択から推して見ると、この男は宗教哲学のようなものを研究しているらしい。 大きな望遠鏡が、高い台に据えて、海の方へ向けてある。後に聞けば、その凸面鏡は、エルリングが自分で磨ったのである。書棚の上には、地球儀が一つ置いてある。卓の上・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そこに現われたのは写実によって美を生かそうとする意図ではなく、美しい色と線との諧和のために、自然の内からある色と線とを抽出しようとする注意深い選択の努力である。現実の風景を描いた画すらも、画家の直接の印象が現われているという気はしない。画家・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・主として画題選択の斬新であるが、時には珍しい形象の取り合わせ、あるいは人の意表にいづるごとき新しい図取りを試みる。しかしこれらの画家を動かしているものは、岡倉覚三氏の時代の自然観、芸術観であって、その手腕の自由巧妙なるにかかわらず、我らの心・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ 第二に我々の気づいたことは、人形の動作がいかに鋭い選択によって成っているかということであった。この選択は必ずしも今の名人がやったのではない。最初、人形芝居が一つの芸術様式として成立したのは、この選択が成功したということにほかならぬので・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫