・・・に投書して下さって、それが一等に当選し、選者の偉い先生が、恐ろしいくらいに褒めて下さって、それから私は、駄目になりました。あの時の綴方は、恥ずかしい。あんなのが、本当に、いいのでしょうか。どこが、いったい、よかったのでしょう。「お使い」とい・・・ 太宰治 「千代女」
・・・ この他、『唐詩選』の李于鱗における、百人一首の定家卿における、その詩歌の名声を得て今にいたるまで人口に膾炙するは、とくに選者の学識いかんによるを見るべし。わずかに詩歌の撰にして、なおかつ然り。いわんや道徳の教書たる倫理教科書の如きにお・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・ 蕪村の句は行く春や選者を恨む歌の主命婦より牡丹餅たばす彼岸かな短夜や同心衆の川手水少年の矢数問ひよる念者ぶり水の粉やあるじかしこき後家の君虫干や甥の僧訪ふ東大寺祇園会や僧の訪ひよる梶がもと味噌汁をく・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・現にこの頃の『ホトトギス』で遣って居るように三、四人の選者で同じ句を選んで見たところで、決して同じ句を選ぶものはない。そのような事を度々繰りかえして見たところで、それがためにだんだん三、四人の選者の標準が近くなって来るというような傾向も見え・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・一九一八年に婦人参政権が認められたイギリスでは、その年一七名立候補して当選者なく、一九二三年に八名、一九二四年に六名、一九三一年には、代議士六一五名中、婦人は一五人という数を示している。アメリカのワイオミング州では、参政権を得てから四十年後・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・それぞれの賞に関係する選者があることは、その選者である有力な作家と選されようと欲する文学志望者との間に、それぞれの作家の稟質を反映して様々の微妙な交渉をも生じている。だが、純文学が民衆の現実からはなれてしまったとしてその根本原因は、文学青年・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ そこまでは各選者とも一致した意見であったが、同時に、この作品を特にすぐれたものとして第一位に推すことは不適当であるという意見にも皆が賛成であった。そこに、この作の作者も読者も深く考えなければならない点があろうと思う。 作者は素直に・・・ 宮本百合子 「入選小説「毒」について」
・・・ 日出新聞社が懸賞で脚本を募ったとき、木村は選者になった。木村は息も衝けない程用事を持っている。応募脚本を読んでいる時間はない。そんな時間を拵えるとすれば、それは烟草休の暇をそれに使う外はない。 烟草休には誰も不愉快な事をしたくはな・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫