・・・主は家隷を疑い、郎党は主を信ぜぬ今の世に対しての憤懣と悲痛との慨歎である。此家の主人はかく云われて、全然意表外のことを聞かされ、へどもどするより外は無かった。「しかし、此処の器量よしめの。かほどの器量までにおのれを迫上げて居おるのも、お・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 白城の城主狼のルーファスと夜鴉の城主とは二十年来の好みで家の子郎党の末に至るまで互に往き来せぬは稀な位打ち解けた間柄であった。確執の起ったのは去年の春の初からである。源因は私ならぬ政治上の紛議の果とも云い、あるは鷹狩の帰りに獲物争いの・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・横光利一、片岡鉄兵、川端康成、中河与一、今東光、十一谷義三郎等を同人とするこの「新感覚派」の誕生は、微妙に当時の社会的・文学的動きを反映したものであった。従来の文学的領野に於ては、依然として志賀直哉が主観的なリアリズムの完成をもって一つの典・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫