・・・柿などというものは従来詩人にも歌よみにも見離されておるもので、殊に奈良に柿を配合するというような事は思いもよらなかった事である。余はこの新たらしい配合を見つけ出して非常に嬉しかった。或夜夕飯も過ぎて後、宿屋の下女にまだ御所柿は食えまいかとい・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・黒と白だけで全部を表現する版画家の人生に対する感情にさまざまな点から新しい興味を喚起されたし、文化の程度の低い民族あるいは社会層の者ほど原色配合を好み、高級となり洗練された人間ほど微妙な間色の配合、陰翳を味わう能力を増すといわれているありき・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・そして、どんな本を読んでも、最後にはその印象が落ちてみのる生活の土壤というものは、日本の社会のさまざまな特質によって配合され、性格づけられたものである現実も知っている。私たちは、植物のようにひとりでにその土壤から生えているのではなくて、力よ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・名所ではないが、自然が起伏に富み、畑と樹林が程よく配合され眺めに変化があるのだ。ぶらぶら歩いていると、漠然、自然と人間生活の緩漫な調和、譲り合い持ち合いという気分を感じ長閑になる。つまり、畑や電柱、アンテナなどに文明の波が柔く脈打っているた・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・あの衣裳の色の配合なぞ立派なもので感心させられます。この頃も桜間金太郎氏の「巴」を見て、その狂言の、罪のない、好意のもてるずるさ、というようなもののあるのを非常に面白いと思いました。 旅行 旅行にはよく出かけま・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・にすくい上げられているのではなく、久内に配合して久内を破綻せしめず目的の「自由」へ送りこむために便利な単純性に、現実の体を与えれば、雁金のような発明家でもつくるしかなかったと思われるのである。 横光は「敵なればこそあの人の行動は、僕にと・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・そのゆたかさにも、規模にも、要素の配合にも実に無限の変化があって、こまかく見ればその発動の運動法則というようなものにも一人一人みな独特な調子をもっているものだろう。とりどりな人間の味、ニュアンスと云われるものの源泉は、恐らくはこういう知性の・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・字が読めない中国の女も、必ずそれは巧みであるとされている中華刺繍の一片は、絹の糸のよりかたから、糸目の並べかた、色の配合、すっかりそれはフランスの刺繍と違う。アメリカのドローン・ワアクとも違っている。違うことにある美しさ、美しさ故に世界の心・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・遠見に淡く海辺風景を油絵で描き、前に小さい貝殼、珊瑚のきれはし、海草の枝などとり集めて配合した上を、厚く膨んだ硝子で蓋したものだ。薄暗い部屋だから、眼に力をこめて凝視すると、画と実物の貝殼などとのパノラマ的効果が現れ、小っぽけな窓から海底を・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・思うに画家の目ざすところは、色と形の配合によって温泉の情趣を浮かび出させるにある。描かれるものの性質を確実につかむことによって、いや応なしにそこに在るものを再現しようというのではない。冷たい温泉を描きながら、しかも浴室の気分を彷彿せしむるな・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫