・・・同時に又そう云う学校を兼ねた食糧や衣服の配給所でもない。唯此処に住んでいれば、両親は子供の成人と共に必ず息を引取るのである。それから男女の兄弟はたとい悪人に生まれるにもしろ、莫迦には決して生まれない結果、少しも迷惑をかけ合わないのである。そ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・「近頃刻み煙草の配給しかないのは、専売局で盗難用の光やきんしを倉庫にストックして置かねばならぬからだ」と。 更に、べつの皮肉屋の言うのには、「七月一日から煙草が値上りになるのは、たびたびの盗難による専売局の赤字を埋めるためだ」と・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・「いや、配給もあるし、ない時は吸殻をパイプで吸うし、しかし二千円はまず吸うかな」「じゃ、いくら稼いでも皆煙にしてしまうわけだ。少し減らしたらどうだ」「そう思ってるんだが、仕事をはじめると、つい夢中で吸ってしまう。けちけち吸ってい・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 一本の足を一寸動かすだけでも、一日の配給量の半分のカロリーが消耗されるくらいの努力が要り、便所へも行けず、窓以外には出入口はないのも同然であった。 その位混むと、乗客は次第に人間らしい感覚を失って、自然動物的な感覚になって、浅まし・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・すべて当然のことであり、誰が考えても食糧の三合配給が先決問題であるという結論に達する。三歳の童子もよくこれを知っているといいたいところである。円い玉子はこのように切るべきだと、地球が円いという事実と同じくらい明白である。しかし、この明白さに・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・それは兵卒に配給すべきものの一部をこっそり取っておいたものだった。彼は、それを持って丘を登り、そして丘を向うへ下った。 三十分ほどたつと、彼は手ぶらで、悄然と反対の方から丘を登り、それから、兵営へ丘を下って帰って来た。ほかの者たちは、ま・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・場から配布される自治案内に、七分搗米に麦をまぜて食えば栄養摂取が十分になって自から健康増進せしむることができると書かれてあって、微苦笑を催させずに措かなかったのはこの二月頃だったが、産業組合購買部から配給される米には一斗に二升の平麦が添加さ・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・経理室から配給された太い、白い、不透明なローソクは、棚の端に、二三滴のローを垂らして、その上に立てゝあった。殺伐な、無味乾燥な男ばかりの生活と、戦線の不安な空気は、壁に立てかけた銃の銃口から臭う、煙哨の臭いにも、カギ裂きになった、泥がついた・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 銃と実弾とは病院にも配給されていたが、それは、非常時以外には使うことを禁ぜられていた。非常時というのは、つまり、敵の襲撃を受けたような場合を指すのであった。 吉田はかまわず出て行った。小村も、あとでなんとかなる、――そんな気がして・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・それが全警備区に配分されて、配給や救護や、道路、橋の修理などにも全力を上げてはたらいたのです。軍用鳩も方々へお使いをしました。 同時に海軍では聯合艦隊以下、多くの艦船を派出して、関西地方からどんどん食料や衛生材料なぞを運び、ひなん者の輸・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
出典:青空文庫