・・・皆、酒気を帯び、上機嫌だ。主賓、いかにも程々に取巻かせて置くという態度。一寸離れて、空色裾模様の褄をとった芸者、二三人ずつかたまって伴をする。――芝居の園遊会じみた場面を作って通り過た。 写真をとるという時、前列に踞んだ芸者が、裾を泥に・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・病院の看護婦といえば、風紀のみだれたもの、という代名詞のように思われていた。酒気を帯びないで勤務している者は一人もないという状態であった。他ならぬそういう看護婦の中に入って行こうというのであるから、フロレンスの周囲が驚倒したのもいわばもっと・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・かつて初めて向陵の人となり今村先生に醇々として飲酒の戒を聞いたその夜、紛々たる酒気と囂々たる騒擾とをもって眠りを驚かす一群を見て嫌悪の念に堪えなかった。ああ暴飲と狂跳! 人はこれを充実せる元気の発露と言う。吾人は最も下劣なる肉的執着の表現と・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫