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・・・言葉すくなき彼はこのごろよりいよいよ言葉すくなくなりつ、笑うことも稀に、櫓こぐにも酒の勢いならでは歌わず、醍醐の入江を夕月の光砕きつつ朗らかに歌う声さえ哀れをそめたり、こは聞くものの心にや、あらず、妻失いしことは元気よかりし彼が心をなかば砕・・・
国木田独歩
「源おじ」
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・・・ 彼の性格の一面が現れ、私には非常に面白く感じられた。 醍醐帝の延喜年間、西暦十世紀頃、京の都大路を、此那実際家、ゆとりのない心持の貴族が通って居たと思うと、或微笑を禁じ得ないではないか。 彼は又、薬師経を枕元で読ませて居た時、・・・
宮本百合子
「余録(一九二四年より)」