・・・蕩子のその醜行を蔽うに詩文の美を借来らん事を欲するのも古今また相同じである。揚州十年の痴夢より一覚する時、贏ち得るものは青楼薄倖の名より他には何物もない。病床の談話はたまたま樊川の詩を言うに及んでここに尽きた。 縁側から上って来た鶏は人・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・是れより以上醜行の稍や念入にして陰気なるは、召使又は側室など称し、自家の内に妾を飼うて厚かましくも妻と雑居せしむるか、又は別宅を設けて之を養い一夫数妾得々自から居る者あり。正しく五母鶏、二母じぼていの実を演ずるものにして、之を評して獣行と言・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この金玉の身をもって、この醜行は犯すべからず。この卑屈には沈むべからず。花柳の美、愛すべし、糟糠の老大、厭うに堪えたりといえども、糟糠の妻を堂より下すは、我が金玉の身に不似合なり。長兄愚にして、我れ富貴なりといえども、弟にして兄を凌辱するは・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・これを、かの世間の醜行男子が、社会の陰処に独り醜を恣にするにあらざれば同類一場の交際を開き、豪遊と名づけ愉快と称し、沈湎冒色勝手次第に飛揚して得々たるも、不幸にして君子の耳目に触るるときは、疵持つ身の忽ち萎縮して顔色を失い、人の後に瞠若とし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・既にブルジョアジーにとって脅威であった民衆の擡頭は、ブルジョアジーが貴族に対して擡頭したのと同じこと、否、貴族に代って権力を把り、貴族の行った総ての悪行を更に小型に没趣味に多数に再生産したブルジョアの醜行非道を、一層卑穢に而も下層階級の夥し・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 女をも不幸の荷い手として見ざるを得ないゴーリキイの育ったこういう環境と、息子が年頃になると小間使の小綺麗なのをあてがい、社交界の身分高い貴夫人と醜行を結ぶことを出世の緒として奨励したロシアの貴族階級の腐敗の中に育ち、それと闘ったトルス・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・彼の周囲には、泥酔や喧嘩や醜行やが終りのない堂々めぐりで日夜くりかえされている。だが、それらすべては何のために在るのだろう。 スムールイは、麦酒を飲みながらしみじみとゴーリキイに云った。「お前がもう少し大きかったら、いろんなことを教・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・彼の周囲の生活の中には、泥酔や喧嘩や醜行やが終りのない堂々めぐりで日夜くりかえされているのだが、それらすべては何のために在るのだろう。 当時、ゴーリキイは、汽船の料理番スムールイに読むことをおそわった。初めはマカロニ箱にこしかけて、『ホ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫