・・・ 船には、たくさんの金銀が積み込んでありましたから、その重みでか、船は沖へ出てしまって、もう、陸の方がかすんで見られなくなった時分から、だんだんと沈みかけたのでした。どんなに、三人の侍女とお姫さまは驚かれたでありましょう。「やはり、・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・逃げ足が遅いだけならまだしも、わずかな紙の重みの下で、あたかも梁に押えられたように、仰向けになったりして藻掻かなければならないのだった。私には彼らを殺す意志がなかった。それでそんなとき――ことに食事のときなどは、彼らの足弱がかえって迷惑にな・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・ 表面だけ固っている雪が、人の重みでくずれ、靴がずしずしめりこんだ。足をかわすたびに、雪に靴を取られそうだった。「あ――あ、くたびれた。」 木村は血のまじった痰を咯いた。「君はもう引っかえしたらどうだ。」「くたびれて動け・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ 新しい雪は、彼等の靴の重みにボコ/\落ちこんだ。彼等は、それを蹴って歩いて行った。…… 黒島伝治 「氷河」
・・・そのまちには、よく似た路地が蜘蛛の巣のように四通八達していて、路地の両側の家々の、一尺に二尺くらいの小窓小窓でわかい女の顔が花やかに笑っているのであって、このまちへ一歩踏みこむと肩の重みがすっと抜け、ひとはおのれの一切の姿勢を忘却し、逃げ了・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・これがロシア語とかドイツ語とかであってみれば事柄はよほどちがって来るが、それでも一度び歌謡となって現われる際にはどうしても母音の方の重みが勝つ。いわんや日本語となると子音の役目はよほど軽くなると云っても差しつかえはない。 母音の重要なと・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・すると糸がうまいぐあいに虫のからだに巻きついて、そうして石の重みで落下して来る。あれも参考になりそうである。つまりピアノ線の両端に錘をつけたようなものをやたらと空中へ打ち上げれば襲撃飛行機隊は多少の迷惑を感じそうな気がする。少なくも爆弾より・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・すると糸がうまい工合に虫のからだに巻き付いて、そうして石の重みで落下して来る。あれも参考になりそうである。つまりピアノ線の両端に重錘をつけたようなものを矢鱈と空中に打ち上げれば襲撃飛行機隊は多少の迷惑を感じそうな気がする。少なくも爆弾よりも・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・変だと思っているうちに、そこに重みのある或るものが動くのを感じたので、はじめて気がついていきなり茶の間へ飛び出し、奇妙な声を出し始めたのだそうである。 窮鳥はふところに入る事があり、窮鼠は猫をかむ事があるかもしれないが、追われたねずみが・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ それからだんだん、ふれ声も平気で言えるようになり、天秤棒の重みで一度は赤く皮のむけた肩も、いつかタコみたいになって痛くなくなり、いつもこんにゃくを買ってくれる家の奥さんや女中さんとも顔馴染になったりしていったが、たった一つだけが、いつ・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
出典:青空文庫