・・・ということで、また被告の人権を重んじようとする、平沢の事件なんかで皆が非常に困った立場になったというようなことから、へんてこりんな基本的人権の尊重のしかたで、この浦和充子の事件でも裁判所は被告の人権を重んずることを社会問題にすることで表現し・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・ この実行は出来るだけサークル員の創意性を重んずる態度をもって話し合されねばならない。この際工場にいるサークル員がメーデー闘争の経験を書き、メーデーへの決意を書き、仲間へメーデーへのケッ起を訴えたものを書くように、それらが何処に於てより・・・ 宮本百合子 「メーデーに備えろ」
・・・才能を重んずる現代の社会から、特に才能に富んだ人を集めた特殊の場所からは、あまり偉大な人が生まれて来ないという事実は、いかにも反語らしく私たちの心に響きます。私は才能を誇りながらついに何の仕事をも成し遂げない高慢な人よりも、才能の乏しい謙遜・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・ 第一の特性は、美に浸る心持ちを善にいそしむ心持ちよりも重んずることを意味する。従って善への関心がないのではない。ただそれが美への関心の下位に立ちさえすればよいのである。むしろ善への関心の強く存在する方がこの特性を一層明らかにするだろう・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・愛の心と個性を重んずる心との争い。個性と愛とを大きくするための主我欲との苦闘。主我欲を征服し得ないために日々に起こる醜い煩い。主我欲の根強い力と、それに身を委せようとする衝動と。愛と憎しみと。自己をありのままに肯定する心と、要求の前に自己の・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・先生の重んずるのはただ道徳的心情である。形式習慣にむやみと反抗するのではなく、ただ道徳的心情よりいでてのみ動こうとしたのである。これを奇行と呼び偏屈と嘲るのは、世間の道義的水準の低さを思わせるばかりで、世間の名誉にはならない。 先生の博・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫