・・・の筆者は重大な手落ちをやっている。この支店長募集をすべてお前の頭からひねり出したように書いているが、また、そうして置く方が、お前の真相をあばく効果を強めることにもなるわけだろうが、むろんここへはおれの名を書きそえるところだった。いや、もっと・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・明日の正午に、重大放送があるということだ」「えっ? 降伏……? 赤鬼が青鬼になった……? ふーん」 白崎は思わず唸ったが、やがて昂奮が静まって来ると、がっくりしたように、「俺はいつも何々しようとした途端に、必ず際どい所で故障がは・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・それがそれほどの重大な犯人……? そしてまた、そうした八年間の実際の牢獄生活の中にも、彼はまだ生の光りを求むる心を失わずにいるかのようにも思える。そしてまた、彼はこのさきまだ何年くらい今の生活を続けなければならないのか――そのことは彼の手紙・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・その青春時代学芸と教養とに発足する時期において、倫理的要求が旺盛であるか否かということはその人の一生の人格の質と品等とを決定する重大な契機である。倫理的なるものに反抗し、否定するアンチモラールはまだいい。それはなお倫理的関心の領域にいるから・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・女性の任務の最大なものは母としてのそれであろうが、母としての務めの中でも、この子どもの精神と霊とを薫陶することが一番高い、重大なものであろう。 しかし子どもの精神と霊性とを薫陶するということも、肉体の世話と、労働の奉仕とを前提としなくて・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・役目がつとまらないということは、自分の進級に関係し、頸に関係する重大なこと柄だった。 兵卒は、初年兵の時、財布に持っている金額と、金銭出納簿の帳尻とが合っているかどうか、寝台の前に立たせられて、班の上等兵から調べられた経験を持っていた。・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 平生、内地米のありがたさには気づかずに食っていたのだが『食』は、『衣』『住』と共に、人間が生きて行く上に最も重大なことなので、まずいとなると、それに対する対策は、なか/\真剣でいくらも智恵が働きそうに思われる。 一週間ばかり外米混・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・民事訴訟の紛紜、及び余り重大では無い、武士と武士との間に起ったので無い刑事の裁断の権能をもそれに持たせた。公辺からの租税夫役等の賦課其他に対する接衝等をもそれに委ねたのであった。実際に是の如き公私の中間者の発生は、栄え行こうとする大きな活気・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・今のわたくし一個人としては、その存廃を論ずるほどに死刑を重大視してはいない。病死その他の不自然な死が来たのと、はなはだ異なるところはない。 無常迅速・生死事大、と仏家はしきりにおどしている。生は、ときとしては大いなる幸福ともなり、またと・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・刑罰の目的を達するに於て、能く其効果を奏せりやとは、学者の久しく疑う所で、是れ亦た未決の一大問題として存して居る、而も私は茲に死刑の存廃を論ずるのではない、今の私一個としては、其存廃を論ずる程に死刑を重大視して居ない、病死其他の不自然なる死・・・ 幸徳秋水 「死生」
出典:青空文庫