・・・ 風俗小説、中間小説の題材とテーマが性に最大の重点をおき、その点にばかり拡大鏡をあてて人間関係を見た状態を、この童画の心理にひきくらべて考えると、その気狂いじみた性への執念はむしろおろかしく、物狂わしい非人間生活の図絵としかみえない。社・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 今日云われている文学の民衆化のことは、嘗て屡々くりかえされて来た純文学対大衆文学の問題ではなく、文学そのものの全体的な重点の移動がもくろまれているところに重大な歴史的意味をもっている。従って、大衆と云い、民衆と云うその目安がどこにどの・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・そういう意味で徳永が印刷工場内の生活に重点をおいたということは理解される。 問題は、その工場内の大衆のこまかい日常生活、動揺、闘争がどの程度までその時の資本主義、日本全体をゆるがしている一般的経済恐慌の具体的あらわれとして把握され描写さ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・を身につけさせるという点になければならないのに、きょうでは先生たちさえも、まだそこに重点をおいていいのだという自信をもっていない。 だけれども、ただの学校否定に意味ないことを、わかいひとびとの批判は、とりあげている。アナトール・フランス・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・ひところ、良心的な人間の社会的任務というものが、その人々の専門の技術以外の社会的行動、政治的な行動に重点を置いて二元的に考えられていた時期があった。そういう行動の可能が周囲に見えなくなったので、人間としての良心的に生きる途を失ったような当惑・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
・・・彼の思想は、当時の知識人の立場を代表して自我の発見に集注していたので、日本の女がたいてい結婚してわるくなるということの重点も、男の自我と女の自我との相剋に、原因をおかれた。そして、その相剋を積極的な主張的なものとして出す力も社会的習慣をも持・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・生の重点はこの努力にあって、与えられた物にあるのではない。呪詛は生を傷い、愛は生を高める。ただ愛せよ、そしてすべてを最もよく生かせよ。――こうして私は喜悦と勇気とに充たされる。天分の疑懼はしばらくの間私の心を苦しめなくなる。 天才はその・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫