・・・ 押しこめに会っていた本能の野獣ども。今日は火の中のワルプルギスだ。如何に醜悪な罪証も寛大な焔が押し包んで焼き消して呉れる。心に遺る罪証の陰気な溜息を恐れない為には、雄々しい仲間をどんと殖して並ばせる。――だが、地の神が衣の裾を一ゆすりする・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 野獣の如き軍事的警察的テロルの虐殺制度に対し憤激したのはひとり革命的労働者、農民ばかりではなかった。ブルジョア作家、自由思想家などもその衝撃を披瀝し、三・四月の文芸時評はことごとく何かの形で、同志小林の受難にふれたのである。しかしなが・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・太った大きな、野獣化した野鼠との格闘のことが文学にもあらわれている。日本の兵士のひとたちにこの苦しみはどうなのだろう。お福さまなどと呼ぶが、私は鼠の音からいつも何となし人生の或る荒涼を感じる。〔一九四〇年七月〕・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・檻の野獣のように苦しんだ。対手をも苦しめた。対手は十五年アメリカで苦労したあげく、休みたがっていた。僅かに「黄昏」「古き小画」などを書いた。確か大正十一年の夏と思う。山川菊栄などが実際の発起者で、与謝野晶子、埴原久和代、其の他多・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・いわば無駄に読まされた百巻の書籍に対して林のために憤怒し、正しい知識を圧殺する野獣的暴圧に対してプロレタリア作家として血の熱するのを覚える。林房雄は作品に対する批判をまともに摂取し、プロレタリア前衛としての日常生活によって速かに立ち直り、抑・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・が、民衆の無知を黙認し、その迷妄と妥協し、そのすべての卑屈さを寛容し、その野獣性を許すことが出来るかね? ニェクラーソフに溺れていたんじゃ何一つ出来ない。百姓は教えられなければいけない――お前が殴られないように生活することを学べってね」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 又、彼女が「野獣」と呼ぶようにしか教えられていなかった急進的な一団のロシア人の中には、クロポトキンがその「思い出」の中に、愛惜をもって美しく描いている有名なソフィア・ペロフスカヤのような秀抜な革命的な若い女もいた。一八八〇年代というと・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫