・・・しかし、ルビーよりは金剛石の方がいいよ。僕黄色な金剛石のいいのを持ってるよ。そして今度はもっといいのを取って来るんだよ。ね、金剛石はどこにあるだろうね」 大臣の子が首をまげて少し考えてから申しました。「金剛石は山の頂上にあるでしょう・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・路のかたわらなる草花は或は赤く或は白い。金剛石は硬く滑石は軟らかである。牧場は緑に海は青い。その牧場にはうるわしき牛佇立し羊群馳ける。その海には青く装える鰯も泳ぎ大なる鯨も浮ぶ。いみじくも造られたる天地よ、自然よ。どうです諸君ご異議がありま・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいているようでした。 * 私の幻燈はこれでおしまいであります。 宮沢賢治 「やまなし」
・・・ 大根を葱からよりわけるように、文化上の健全なものと不健全なものとを二つの山によりわけて、健全なものときまった方のものは、どんな応用のしかたをしてもその健全さは変らないと、金剛石さえ焼ければ消えることのある現実を忘れたような解釈が、知ら・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・一滴 一滴水の雫が金剛石の噴水を作るように一字一字我書く文字の間から生き、泣き、笑い、時代を包む人生が読者の胸に迫るのだ。ほの白い原稿紙午後五時のひかり暫く その意味深い空虚のままに居れ。やがて ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・そんな時、金剛石のような光りの尾を引いた流星達は、窓の外まで突ぬけそうな勢で、垂幕の端から端へと滑りました。 けれども誰一人これを知っている者はありませんでした。お婆さんが糸を巻くのは、もう風見のさえ、羽交に首を突こんで一本脚で立ったま・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・そして友達と雑談をするとき、「小説家なんぞは物を知らない、金剛石入の指環を嵌めた金持の主人公に Manila を呑ませる」なぞと云って笑うのである。石田が偶に呑む葉巻を毛布にくるんで置くのは、火薬の保存法を応用しているのである。石田はこう云・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・舞うさまいかにと、芝居にて贔屓の俳優みるここちしてうち護りたるに、胸にそうびの自然花を梢のままに着けたるほかに、飾りというべきもの一つもあらぬ水色ぎぬの裳裾、せまき間をくぐりながらたわまぬ輪を画きて、金剛石の露こぼるるあだし貴人の服のおもげ・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫