・・・類すといえども、かくのごときは何となく金玉の響あるものなり。あえて穿鑿をなすにはあらず、一部の妄誕のために異霊を傷けんことを恐るればなり。 また、事の疑うべきなしといえども、その怪の、ひとり風の冷き、人の暗き、遠野郷にのみ権威ありて、そ・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・利休の指点したものは、それが塊然たる一陶器であっても一度その指点を経るや金玉ただならざる物となったのである。勿論利休を幇けて当時の趣味の世界を進歩させた諸星の働きもあったには相違ないが、一代の宗匠として利休は恐ろしき威力を有して、諸星を引率・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・夫婦、長幼、たがいに相依り相依られ、たがいに相敬愛し相敬愛せられ、両者相対して然る後に教を立てたることなれども、今日自主独立の教においては、まず我が一身を独立せしめ、我が一身を重んじて、自からその身を金玉視し、もって他の関係を維持して人事の・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・もしもその本心に問うて慊からざることあらば、仮令え法律上に問うものなきも、何ぞ自ら省みて、これを今日に慎まざるや。金玉もただならざる貴重の身にして自らこれを汚し、一点の汚穢は終身の弱点となり、もはや諸々の私徳に注意するの穎敏を失い、あたかも・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・何と云うどえらい御方じゃろう新らしい内はちやほやとどうぞ利益の有るようとかってなことをいのり上げ古くなったら三年目かまどで地獄の目を見せる何の利益がそれであろう家がやけるか金玉が倉から逃げるがい□□(なら・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫