・・・楽屋落ちのようだが、横に拡がるというのは森田先生の金言で、文章は横に拡がらねばならぬということであり、紅葉先生のは上に重ならねばならぬというのであった。 その年即ち二十七年、田舎で窮していた頃、ふと郷里の新聞を見た。勿論金を出して新聞を・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・この仏陀の金言を無視するは許されぬ。「法華経方便品」によれば、「十方仏上ノ中ニハ、唯一乗ノ法ノミアリテ、二モ無ク亦三モ無シ」とある。 仏陀の正法は法華経あるのみ。その他の既成の諸宗は不了義の権経にもとづく故に、ことごとく無得道である。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・いま、ふところから取り出した書物は、ラ・ロシフコオの金言集である。まず、いいほうである。流石に、笠井さんも、旅行中だけは、落語をつつしみ、少し高級な書物を持って歩く様子である。女学生が、読めもしないフランス語の詩集を持って歩いているのと、ず・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・ふんどし一つで、金言を吐いていたんじゃ、まるで何かみたいだ。しかも私には、その金言さえ、おぼつかない。あたりまえの発見を、人よりおそく、一つ一つ、たんねんに珍重し、かなしみ、喜び、歎息している有様である。のろいのである。近ごろ、また、めっき・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・一日氏の机上においてある紙片を見ると英語で座右の銘とでもいったような金言の類が数行書いてあった。その冒頭の一句が「少なく読み、多く考えよ」というのであった。他の文句は忘れてしまったが、その当時の自分の心境にこの文句だけが適応したと見えて今で・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・万古不易の金言、思わざるべからず。 さてまた、子を教うるの道は、学問手習はもちろんなれども、習うより慣るるの教、大なるものなれば、父母の行状正しからざるべからず。口に正理を唱るも、身の行い鄙劣なれば、その子は父母の言語を教とせずしてその・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・この世は辛いのでいいのだという金言みたいなのがのっている。 実にブルジョア地主が、好きで繰返す言葉だ。頁をくって見ると、『キング』の至るところにこの種類の金言がはめこまれている。「老いて楽をしようと思えば若いうち蟻のように働け」「圧・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・知らしむべからず、よらしむべしという徳川幕府の政治的金言は、天皇制運営者たちによって、人民にあてはめられて来たばかりでなく天皇そのひとの生涯に適用された。天皇一族の経済的なよりどころは資本家、地主としての日本の資本主義の上にある。その帝国主・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・というあの金言の真の深さと重さをも。二 私はこの出来事が小さい家常茶飯の事であるゆえをもって、その時の自分の心の態度を軽視する事はできなかった。むしろそれがきわめて単純にまた明白に、自分の運命に対する愛と反撥とを示してくれた・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫