・・・居ても母親のそばで猫可愛がりにされつけて居たお君には、晦日におてっぱらいになるきっちりの金を、巧くやりくって行くだけの腕もなかったし、一体に、おぼこじみた女なので長い間、貧乏に馴れて、財布の外から中の金高を察しるほど金銭にさとくなって居るお・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・母は大人の感情で一円だけの金高を他の銀貨をまぜて揃えたのであった。 金の分列というか、そうやって同じ一円をいろいろの銀貨や白銅でいろいろの数に多くしたり少くしたり、それでつまり一円に出来る面白さが強く子供の心を捕えた、ものを買える買えな・・・ 宮本百合子 「百銭」
・・・四月一日以来各家庭からとり上げられた二百円は、金高の二百円であらわしきれない大きい不安を、あまねく日本の国民の胸に烙きつけたのである。全有権者は、この生々しい不安と手にわたされた選挙場への入場票を見くらべて、深い思いにうたれるのである。・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
・・・と、仮令金高は僅かでも、好意で引いたりして呉れたことは、真から二人に快感を与えた。 此から幾年か居る、その家を貸すものに、唯利害関係からではなく、真個に人の世の生きるらしい友情と好感とを以て接して行けると云うことは、特別、家主、店子・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・そして新七の手から太郎兵衛に渡った金高までを探り出してしまった。 米主は大阪へ出て訴えた。新七は逃走した。そこで太郎兵衛が入牢してとうとう死罪に行なわれることになったのである。 ―――――――――――――――― 平・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫