・・・三等列車の鋼鉄ではられた外側いっぱいに「五ヵ年計画を四年で!」というスローガンや、工場と農村の労働、その結合を主題にした絵、または一目見ても思わずふき出すような反宗教の漫画を描いた列車が、屋根に赤い旗をひるがえし、窓からつき出した元気な若者・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・「鋼鉄はいかに鍛えられたか」の著者、オストロフスキーをもわざわざ南露に訪ね、自分の生命の最後の一滴をも人類の発展のために注ぎつくそうとしているこの若く熱烈な不具の新人間の高貴な額に、尊敬と愛着との涙をもって接吻した。 特にフランスへ帰ろ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 三等車は鋼鉄だ。暗い緑色に塗ってある。プラットフォームの屋根の直ぐ下に列車の黒い屋根があり、あたりはあまり明るくないところへ、並んでるどの車もくすんだ色だから陰気に見えた。 国立出版所に働いてるナターリアが、 ――所書なくさな・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 国内戦時代のたたかいの結果、失明し全身不随となった若いオストロフスキーが、同志と家族にたすけられつつ、その生涯の終りに「鋼鉄はいかに鍛えられたか」という長篇小説をのこした。このことは、ただ彼が成功した一人の素人作家であって、十九世紀ロ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・日本では文学のわかる批評家が問題にしないような通俗小説が読者の低められている文化力の上で稼いでいるのと違って、例えば「鋼鉄は如何に鍛えられたか」が、所謂批評家の注意をひかぬ以前から、すでに大衆的な支持を得ていたというような事実が、文学作品の・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・石炭、石油、鋼鉄そのほかさまざまの地球のもちもの同様に。音楽、文学、映画などが、地球の各人民の生活からそれぞれの特長をもって発生しつつ、全人類の所有に帰すると同じように。 したがって、現代説話のイカルスは、太陽熱にとかされる古風な膠など・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・ ずいぶん粗末な小屋掛け同様の建物が出来、むこうの部落まで、真中に一ヵ所停留場を置いて、数間置きに支柱が立って、鋼鉄の縒綱が頂上の滑車に通り、いよいよ運転を開始したのは、もう七月も半ば過ぎていた。 六はもちろん、早速見物に行った。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・彼の作品「鋼鉄はいかに鍛えられたか」は邦訳された。遺憾なことにこの小説の翻訳はその内容の性質によって発売を禁ぜられた。出版当時には二三の人によって作品評を試みられていたのであった。この小説は作者オストロフスキーがロシアの国内戦当時自身経験し・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ 綾小路の目は一刹那鋼鉄の様に光った。「八方塞がりになったら、突貫して行く積りで、なぜ遣らない。」 秀麿は又目の縁を赤くした。そして殆ど大人の前に出た子供のような口吻で、声低く云った。「所詮父と妥協して遣る望はあるまいかね。」「・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 今一人は十八九の若武者と見えたけれど、鋼鉄の厚兜が大概顔を匿しているので十分にはわからない。しかし色の浅黒いのと口に力身のあるところでざッと推して見ればこれもきッとした面体の者と思われる。身長はひどく大きくもないのに、具足が非常な太胴・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫