・・・どちらが長生きだかちょっとわからない。 これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない、これは鳥の目の調節の速・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・どちらが長生きだかちょっと判らない。 これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない。これは鳥の眼の調節の速さ・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・自分もせいぜい長生きする覚悟で若い者に負けないように銀座アルプスの渓谷をよじ上ることにしたほうがよいかもしれない。そうして七十歳にでもなったらアルプスの奥の武陵の山奥に何々会館、サロン何とかいったような陽気な仙境に桃源の春を探って不老の霊泉・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・それで、もしも現在の秒で測った人間の寿命が不変でいてくれればわれわれは次第に長生きになる傾向をもっているわけである。しかし人間の寿命がモーターの回転数で計られるようになることが幸か不幸かはそれはまた別問題であろう。 四 空中・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・それで、人間が非常に長生きをしたらだんだん親猿に似て来るかと思って考えてみる。西洋の絵入雑誌などに時々現われる百歳以上の婆さんなどには実際かなりに親猿のような顔をしたのもあることはある。 動物が年を取るほど高等になると仮定する。そうして・・・ 寺田寅彦 「猿の顔」
・・・ 先生が、もう少しだらしのない凡人であってくれたら、そうしたらおそらくもう少し長生きをされて、そうしてもう少し長く後進のためにもめんどうを見てくださることができ、また先生としてももう少しのどかな生涯を送られたではないかという気がすること・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・先生が大家にならなかったら少なくももっと長生きをされたであろうという気がするのである。 いろいろな不幸のために心が重くなったときに、先生に会って話をしていると心の重荷がいつのまにか軽くなっていた。不平や煩悶のために心の暗くなった時に先生・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・たとえばハミルトンがもっと長生きをしたとか、アインシュタインが病気したとか、欧州戦争がなかったとか、そんなような事情のために、物理学の体系が現在とはいくらかでもちがった形をとることは可能ではないか、少なくもこういう疑問を起こしてみることは必・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 長生きが出来ていいでしょう。などとこっちの家では噂をして居る。 女中を一人と、親類の預りっ子か何か「清子」と云う十三四のが水仕事や何かはして居ると見えて、「清子、何とかをして御くれ。と奥さんが大きな声を出す・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・この本の中で益軒は智慧をつくして、男が長生きをする養生の方法を研究しているのである。熱い風呂に入るなということから、性生活にわたるまでを丁寧に教えている。そうして見れば、当時の標準で、いくらかは医学の知識も学んでいたのだろう。それにもかかわ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫