・・・時の長短という事はもちろん相対的な意味しかない。蜉蝣の生涯も永劫であり国民の歴史も刹那の現象であるとすれば、どうして私はこの活動映画からこんなに強い衝動を感じたのだろう。 われわれがもっている生理的の「時」の尺度は、その実は物の変化の「・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ 映画のタイトルに相当する詞書の長短の分布もいろいろ変化があって面白く、この点も研究に値いする。 二つのクライマックスの虐殺の場がかなり分析的にコマ数を多くして描写されている。展覧会場では、この二つの頂点の処の肝心な数コマが白紙で蔽・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・しかし私の書き抜いた長短わずかに二十三句の中にこういう「魚鳥」複合といったようなものが三度までも現われているのは決して偶然とは思われない。たとえば利牛の句十八の中に鳥類は二度現われるが魚類は一つも現われないのである。 史邦の句三十八ばか・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・無論描かれる波の数は無限無数で、その一波一波の長短も高低も千差万別でありましょうが、やはり甲の波が乙の波を呼出し、乙の波がまた丙の波を誘い出して順次に推移しなければならない。一言にして云えば開化の推移はどうしても内発的でなければ嘘だと申上げ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・両者を知ったものが始めて両者の利害長短を比較するの権利を享ける。中学の課目は数においてきまっている。時間の多少は一様ではない。必要の度の高い英語のごときは比較的多くの時間を占領している。批評の条項についても諸人の合意でこれらの高下を定める事・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・西洋では煙管に好みを有って、大小長短色々取り交ぜた一組を綺麗に暖炉の上などに並べて愉快がる人がある。単に蒐集狂という点から見れば、此煙管を飾る人も、盃を寄せる人も、瓢箪を溜める人も、皆同じ興味に駆られるので、同種類のもののうちで、素人に分ら・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・その心掛けは嘉みすべしといえども、人々に天賦の長短もあり、家産・家族の有様もあり、幾千万の人物が決して政治家たるべきにも非ず、また大学者たるべきにも非ず。世界古今の歴史を見ても、その事実を証すべきなれば、政治も学問も、その専業に非ざるより以・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・また前に挙げた紅葉等の諸家と俳諧での子規との如きは、才の長短こそあれ、その作の中には予の敬服する所のものがある。次にここに補って置きたいのは、翻訳のみに従事していた思軒と、後れて製作を出した魯庵とだ。漢詩和歌の擬古の裡に新機軸を出したものは・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫