・・・ けだものの咆哮の声が、間断なく聞える。「なんだろう。」私は先刻から不審であった。「すぐ裏に、公園の動物園があるのよ。」妹が教えてくれた。「ライオンなんか、逃げ出しちゃたいへんね。」くったく無く笑っている。 君たちは、幸福だ・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・落花間断なく乱れ散り、いつしか路傍に白雪の如く吹き溜り候て、老生の入歯をも被い隠したりと見え、いずこもただ白皚々の有様に候えば老生いささか狼狽仕り、たしかにここと思うあたりを手さぐりにて這うが如くに捜し廻り申候。なんですか、とわが呆然たる敵・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・雪が間断なく吹き込む。その辺の畳も、二人の髪、肩なども白くなって行く。――幕。 第三幕舞台は、伝兵衛宅の奥の間。正面は堂々たる床の間だが、屏風が立てられているので、なかば以上かくされている。屏・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・そのとどろきと交じって、砲声が間断なしに響く。 街道には久しく村落がないが、西方には楊樹のやや暗い繁茂がいたるところにかたまって、その間からちらちら白色褐色の民家が見える。人の影はあたりを見まわしてもないが、青い細い炊煙は糸のように淋し・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・それに、電話がすぐそばにあるので、間断なしに鳴ってくる電鈴が実に煩い。先生、お茶の水から外濠線に乗り換えて錦町三丁目の角まで来ておりると、楽しかった空想はすっかり覚めてしまったような侘しい気がして、編集長とその陰気な机とがすぐ眼に浮かぶ。今・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・を作っているが、これを間断なく見守っていない他人に向かって子供の時の顔と今の顔とを切り離して見せてそれが同人だという事を科学的理論的に証明しようとしたらずいぶん困難な事だろう。何十年来一つ家に暮らした親にでも、自分がある夜中に突然入れ換わっ・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・そして帽子をさらわれないために間断なき注意を余儀なくさせられた。電車に乗ると大抵満員――それが日本特有の満員で、意地悪く押されもまれて、その上に足を踏みつけられ、おまけに踏んだ人から「間抜けめ、気を付けろい」などと罵られて黙っていなければな・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・傘のように開いた荷揚器械が間断なく働いて大きな函のようなものを吊り揚げ吊り降ろしている。 ドイツの兵隊が大勢急がしそうにそこらをあちこちしている。 不意に不思議な怪物が私の眼の前に現われて来た。それはちょうど鶴のような恰好をした自働・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・そこからは青い松原をすかして、二三分ごとに出てゆく電車が、美しい電燈に飾られて、間断なしに通ってゆくのが望まれた。「ここの村長は――今は替わりましたけれど、先の人がいろいろこの村のために計画して、広い道路をいたるところに作ったり、堤防を・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・帚葉山人はわざわざわたくしのために、わたくしが頼みもせぬのに、その心やすい名医何某博士を訪い、今日普通に行われている避姙の方法につき、その実行が間断なく二、三十年の久しきに渉っても、男子の健康に障害を来すような事がないものか否かを質問し、そ・・・ 永井荷風 「西瓜」
出典:青空文庫