・・・ ――間近に迫った人家の屋根や雨に打れ風に曝された羽目を見、自分の立って居る型ばかりの縁先に眼を移し、その間、僅か十坪に足りない地面に、延び上るようにして生えて居る数本の樹木を見守った時、私は云いようのない窮屈さを感じた。 自然を追・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・ つい間近に成った民衆座の同じものが、かなりよく出来たというのは悦しい。 Romain Rolland の近作“Colas Breugnon”が出版された。 此は、戦争中に書かれたものだそうだが、上梓されたのはつい近頃の事で・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ けれ共、驚きのために低い叫びをあげて私の居た裏口の方へかけて来、少しの間うじうじした後、すぐ間近に居た私の足に、土を飛ばせながら畑地を彼方にこいで行って仕舞った。 なげ出された木の根っこは、ふてた娘の様にフウフウとはげしい煙に、あ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・夜になると、田端の汽車の汽笛が、つい間近にきこえて来た。「久しぶりで、たっぷり炭をおこしてあげたいけれど、あんまりのぞみがないわ」「いいさ。寒けりゃいくらでも着られるだけ結構なもんだ」 ペンをもったなり口を利いていた重吉は、又つ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ わたしは、帝劇の舞台に間近な補助椅子にかけていて、目をこらして、この貧寒なクライマックスを観た。そして、牢やの中のあばずれは、ともかく表現したこの女優が、この人間的飛躍のクライマックスでしめした日本式転身の姿に、うたれた。山口淑子の俳・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・そうして間近には警視庁の大建築がそそり立っている。そうなるとあのなだらかな土手が不思議にも偉大さを印象し始めるのである。あの濠と土手とによる大きい空間の区切り方には、異様に力強い壮大なものがある。しばらく議事堂や警視庁の建築をながめたあとで・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫