・・・ 絵画には全く無関心だそうである。四元の世界を眺めている彼には二元の芸術はあるいはあまりに児戯に近いかもしれない。万象を時と空間の要素に切りつめた彼には色彩の美しさなどはあまりに空虚な幻に過ぎないかもしれない。 三元的な彫刻には多少・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・なんとなればわが国の映画製作者でも批評家でも日本固有文化に関心をもって、これに立脚して製作し批評しているらしい人は少なくも自分の目にはほとんど見当たらないからである。アメリカニズムのエロ姿によだれを流し、マルキシズムの赤旗に飛びつき、スター・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・画家文士の如き芸術に従事する人たちが明治の末頃から、祖国の花鳥草木に対して著しく無関心になって来たことを、むしろ不思議となしている。文士が雅号を用いることを好まなくなったのもまた明治大正の交から始った事である。偶然の現象であるのかも知れない・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・一般の社会は今日といえども科学という世界の存在については殆んど不関心に打ち過ぎつつある。彼らから見て闇に等しい科学界が、一様の程度で彼らの眼に暗く映る間は、彼らが根柢ある人生の活力の或物に対して公平に無感覚であったと非難されるだけで済むが、・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・彼の画面に対して、あんなにも透視的の奥行きをあたへたり、適度の明暗を反映させたり、よつて以てそれを空間から切りぬき、一つの落付きある完成の気分をそへる額縁に対して、どんな画家も無関心でゐることができないだらう。同じやうに我等の書物に於ける装・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・それだからこそ、私たちの生活の必要にぴったりと結びついており、生活的関心はトピックに対する最も強い興味であることを証明しているのであると思う。 食糧問題についても、私たちは随分長いこと、分不相応な苦痛と努力と七転八倒的なやりくりを経験し・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 此那奇蹟的関心が沢や婆に払われるには原因があった。仙二の家の納屋をなおした小屋に沢や婆は十五年以上暮していた。一月の三分の二はよその屋根の下で眠って来た。夏が去りがけの時、沢や婆さんは腸工合を悪くして寝ついた。何年にもない事であった。・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ しかしながら、此の資本主義機構は、崩壊しつつあるや否や、と云うことは、最早やわれわれ文学に関心するものの問題ではない。 われわれの問題は、文学と云うものが、此の資本主義を壊滅さすべき武器となるべき筈のものであるか、或いは文・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・自分はここにその個所を紹介することによって右の書に対する関心を幾分かでもそそりたいと思う。 中世の末にヨーロッパの航海者たちが初めてアフリカの西海岸や東海岸を訪れたときには、彼らはそこに驚くべく立派な文化を見いだしたのであった。当時・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・したがってこの家訓は、学問と道理とに対する関心のもとに、主として学問の心得を説いたものだといってよいのである。 まず初めに手習い学問の勧めを説き、「年の若き時、夜を日になしても手習学文をすべし。学文なき人は理非をもわきまへ難し」と言って・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫