・・・悪を懲らし害を防ぎて、もって心身の平安を助くるのみ。経済、何のためにするや。人工を便利にして形体の平安を増すのみ。されば平安の主義は人生の達するところ、教育のとどまるところというも、はたして真実無妄なるを知るべし。 人あるいはいわく、天・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・かれ攻めこれ防ぎおのおの防ぐ事九度、攻むる事九度に及びて全勝負終る。○ベースボールの球 ベースボールにはただ一個の球あるのみ。しかして球は常に防者の手にあり。この球こそこの遊戯の中心となる者にして球の行く処すなわち遊戯の中心なり。球は常・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・そして下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、地球全体を平均で五度ぐらい暖かくするだろうと思う。」「先生、あれを今すぐ噴かせられないでしょうか。」「それはできるだろう。けれども、その仕事に行ったもののうち、最後の一人はどうしても逃げら・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・「志賀さんが男で、あれだけの天分と、経済力とをもって自分の境地を守り得るのと、一人の女の作家が、いまの世の中でめぐり合うものとは、全くちがうんじゃないでしょうか。防ぎきれるものですか、否応なくこわされますよ。内からも外からも。だからこそ・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・インフレーションの悪化は防ぎようもなくて、先日のラジオで石橋蔵相が何といったでしょう。彼は聖書の文句を引用しました。「幼な児の如くならざれば天国に入るを得ず。」国民は幼な児のごとく政府を信頼して、三月危機を突破してくれといいました。 戦・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・このめぐりの野は年毎に一たび焚きて、木の繁るを防ぎ、家畜飼う料に草を作る処なれば、女郎花、桔梗、石竹などさき乱れたり。折りてかえりて筒にさしぬ。午後泉に入りて蟹など捕えて遊ぶ。崖を下りて渓川の流に近づかんとしたれど、路あまりに嶮しければ止み・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・しかし、これらの憐れにも死に逝く肺臓の穴を防ぎとめ、再び生き生きと活動させて巷の中へ送り出すここの花園の院長は、もとは、彼の助けているその無数の腐りかかった肺臓のように、死を宣告された腐った肺臓を持っていた。一の傷ついた肺臓が、自身の回復し・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・もちろん漱石は客を好む性であって、いやいやそうしていたのではないであろうが、しかしそれは客との応対によって精力を使い減らすということを防ぎ得るものではない。客が十人も来れば台所の方では相当に手がかかる。しかし客と応対する主人の精神的な働きも・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫