・・・しかしながら現代の男女としてはかような情緒にほだされていわゆる濡れ場めいた感情過多の陥穽に陥るようなことはその気稟からも主義からも排斥すべきであって、もっと積極的に公共の建設的動機と知性とをもって明るく賢く快活に生きるべきであろう。 さ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・丙は時として荊棘の小道のかなたに広大な沃野を発見する見込みがあるが、そのかわり不幸にして底なしの泥沼に足を踏み込んだり、思わぬ陥穽にはまって憂き目を見ることもある。三種の型のどれがいけないと言うわけではない。それぞれの型の学者が、それぞれの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・草原の草を縛り合わせて通りかかった人を躓かせたり、田圃道に小さな陥穽を作って人を蹈込ませたり、夏の闇の夜に路上の牛糞の上に蛍を載せておいたり、道端に芋の葉をかぶせた燈火を置いて臆病者を怖がらせたりと云ったような芸術にも長じていた。月夜に往来・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・彼らの一人大石誠之助君がいったというごとく、今度のことは嘘から出た真で、はずみにのせられ、足もとを見る暇もなく陥穽に落ちたのか、どうか、僕は知らぬ。舌は縛られる、筆は折られる、手も足も出ぬ苦しまぎれに死物狂になって、天皇陛下と無理心中を企て・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫