・・・ョアとかいう言葉は、いっそういやですし、他に適切な言葉も、私の貧弱な語彙を以華族の当主で、しかもフランス留学とかの派手な学歴をお持ちになっているのに、それでも、あなたのお書きになっている作品に、そんな隔絶した境遇を飛び越えて、少しも誇張では・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・小説界と映画界とは、そんなに遠く隔絶せられた世界でもない。小説家としての私の愚見も、あるいは、ひょっとしたら、ひとりの勇敢な映画人に依って支持せられるというような奇蹟が無いものでもあるまい。もし、そのような奇蹟が起ったならば、これもまた御奉・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・そこには、殿様という隔絶された御身分に依る不幸もあったに違いない。僕たち長屋住居の者であったら、「お前は、おれを偉いと思うか。」「思いません。」「そうか。」 というだけですむ事も、殿様ともなればそうも行くまい。天才の不幸、殿・・・ 太宰治 「水仙」
・・・生活のまったく絶息してしまったようなこの古い鄙びた小さな都会では、干からびたような感じのする料理を食べたり、あまりにも自分の心胸と隔絶した、朗らかに柔らかい懈い薄っぺらな自然にひどく失望してしまったし、すべてが見せもの式になってしまっている・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・立つ展開とその具体的な内容について、さしたる重要性を見ようとしない立場の人々と、第二次大戦を通じてフランス人民の生活と文学とが変化した事実をはっきり把握している人々の間には、いちじるしい精神と気風との隔絶がある。後者は、こんにち日本の銀座に・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ちがう意味での文学的啓蒙が日本の文化にとってどんなに必要かということは、二年前ともかく知性の作家と称して売れた阿部知二氏の売れゆきは去年でぐっと減って、島木健作氏さえ本年にかけて石川達三氏に売れゆきを隔絶的に凌駕されているという、一応文学以・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・で、現代は民衆の文化水準と知識人の文化水準とが、社会機構の欠陥から余り隔絶しすぎてしまっている、知識人は民衆が現実としてもっている文化水準へ歩みよる努力をしなければならない、そこに新たな文化の生育の可能とヒューマニズムの芽とがかくされている・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ デモクラシーというアメリカの祖語に対して、日常現実のそういう対立と隔絶の中からドライサアの見出した悲劇が、現代のアメリカの社会悲劇であるということは、誰しも肯かざるを得ないから、この作品が今から三十年前に発表されたとき、アメリカのあら・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・徴は、その文学の世界をつくり出す因子として、その文学の運命の担いてとしての民衆生活と作家の内的世界との統一のことはいわれないで、これまでそれ等の作家・評論家たちが、一握りの知識人として庶民のくらしとは隔絶した日常のなかで語り書きして来た文学・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
出典:青空文庫