・・・夕化粧の襟足際立つ手拭の冠り方、襟付の小袖、肩から滑り落ちそうなお召の半纏、お召の前掛、しどけなく引掛に結んだ昼夜帯、凡て現代の道徳家をしては覚えず眉を顰めしめ、警察官をしては坐に嫌疑の眼を鋭くさせるような国貞振りの年増盛りが、まめまめしく・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・幹をすかして空の見える反対の方角を見ると――西か東か無論わからぬ――爰ばかりは木が重なり合て一畝程は際立つ薄暗さを地に印する中に池がある。池は大きくはない、出来損いの瓜の様に狭き幅を木陰に横たえている。これも太古の池で中に湛えるのは同じく太・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・は身振狂言で帝国主義とファシズムに対する攻撃を始めたが、ここで一つ際立つ芸術上の現象がある。それは諷刺的要素の増大ということだ。 芸術上、諷刺性格が二通りある。一つは手投弾のように迅速な、的確に敵をバクロ、攻撃する役に立つ性格。他の一つ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫