・・・「それで治兵衛……は分ったが、坊主とはどうした訳かね。」「何、旦那さん、癇癪持の、嫉妬やきで、ほうずもねえ逆気性でね、おまけに、しつこい、いんしん不通だ。」「何?……」「隠元豆、田螺さあね。」「分らない。」「あれ、は・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・この男バナナと隠元豆を入れたる提籠を携えたるが領しるしの水雷亭とは珍しきと見ておればやがてベンチの隅に倒れてねてしまいける。富米野と云う男熊本にて見知りたるも来れり。同席なりし東も来り野並も来る。 こゝへ新に入り来りし二人連れはいずれ新・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・マルヌッフ夫婦の悪行で曇った食事皿の中の隠元豆に引き合わしてしまうまで、バルザックは一旦掴んだ我々の手頸を離さぬ。更に、ポーランドの独立運動に対する妥協のない作者の反感。常にイギリスに反撥して示される民族主義的な誇、「私の政敵は即ちこの政敵・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「茄子に隠元豆が煮えておりまするが。」「それで好い。」「鳥は。」「鳥は生かして置け。」「はい。」 婆あさんは腹の中で、相変らず吝嗇な人だと思った。この婆あさんの観察した処では、石田に二つの性質がある。一つは吝嗇である・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫