・・・その朝、隣組の義勇隊長から義勇隊の訓練があるから、各家庭全員出席すべしといって来た。「どんな訓練ですか」「第一回だから、整列の仕方と、敬礼の仕方を教えて、あとは講演です」 と、いう。「僕は欠席します。整列や敬礼の訓練をしたり・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・「……壕舎ばかりの隣組が七軒、一軒当り二千円宛出し合うて牛を一頭……いやなに密殺して闇市へ売却するが肚でがしてね。ところが買って来たものの、屠殺の方法が判らんちゅう訳で、首の静脈を切れちゅう者もあれば眉間を棍棒で撲るとええちゅう訳で、夜・・・ 織田作之助 「世相」
・・・聴けば、健康診断のたびに医者は当分の静養をすすめるそうだが、そんなことはけろりと忘れた顔をして、忙しく派手に立ち働いている。隣組の組長もしているという。三十歳そこそこの若さでだ、阿修羅みたいにそんなに仕事が出来るのはよくない前兆だぞと、今は・・・ 織田作之助 「道」
・・・ と戦争の事を言いかけたら、お隣りの奥さんは、つい先日から隣組長になられたので、その事かとお思いになったらしく、「いいえ、何も出来ませんのでねえ。」 と恥ずかしそうにおっしゃったから、私はちょっと具合がわるかった。 お隣りの・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・む、いくらだ、とわれを嘲弄せんとする意図あからさまなる言辞を吐き、帰りしなにふいと、老人、気をつけ給え、このごろ不良の学生たちを大勢集めて気焔を揚げ、先生とか何とか言われて恐悦がっているようだが、汝は隣組の注意人物になっているのだぞ、老婆心・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ 国民食の研究資料として、主婦たちの声をとりあつめるのも、隣組の回覧板と一緒に出来ないことでもなかりそうに思える。防犯隣組は出来ても、そういう活動は気づかれていないところに、考えるべきものがあると思われる。『婦人之友』の調査で、うど・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・「隣組」の実際的なねうちは、漁家のそれら様々の問題にふれてそこに何か光明をつくり出してゆくところに期待されていいのだと思う。 大きい自然の力を対手にして人間が原始的な方法で戦わなければならないとき、そこにはいろいろの迷信や伝統が生れ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ 先日或る座談会でその話題にふれたとき、少くとも隣組の婦人たちの間では、婦人の参政権に対する興味の気ぶりさえも見られないということであった。「そんなことより食べることに忙しくて」と云う表現もきかれた。成程、そういう片づけかたをしている部・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・或る隣組の常会で、その話が出て、お宅ではどうなすっていらっしゃいますかという問いが出た。一軒の家は、一日おきに田舎へとりに行っておりますからと答えた。もう一軒の主婦は、買いつけの八百屋にビールをのませたりするというような返答で、それきり話は・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 明日の日本の主婦たち、娘たちが健全な新鮮な政治の理解に立ち、自分たちの日常の生活処理にかかわることとして政治的成長を遂げてゆくことは、決してたやすいことではないと思う。 隣組ができて、そして物資の問題が切迫するようになって来てから・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫