・・・並んで流れつつ、それは別な河、という存在ではなくて、澎湃たる日本の新民主主義文学のゆたかにひろい幅と、雄大なその延長とのうちにとけ入り、包括されるはずのものと思う。伸びる芽には必ずきっさきがある。動く車に軸がある。歴史の前進の主軸が、現世紀・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・主主義が歴史の深いたたみ目をもっていて、民主化という一つの言葉の中に、ヨーロッパの二世紀と今日のもっとも前進した民主主義とを包含しなければならないという歴史を否定しないならば、自我の問題も世界史のこの雄大なプログラムにしたがって解決してゆか・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・ 猪狩満直 私は北海道へ行ったことがあるので、作者が荒々しい開墾地をかこむ自然の雄大さなどを描こうとしている心もちがよく分って読んだ。然し、寅公が六年も辛棒した揚句に、折角辛苦した土地をすてて故郷へかえらねばならなかった程の濃厚な窮乏・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・ルネッサンス時代は文学作品ばかりでなく、絵画に彫刻に雄大な作品が花と咲き満ちた時期であった。けれどもじっと見ていると、ミケランジェロの絵のなかには何か憂鬱がある。有名なバチカンの壁画など見ていると、宇宙的なミケランジェロの雄渾さとともに一種・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ ナポレオン・ボナパルトのこの大遠征の規模作戦の雄大さは、彼の全生涯を通じて最も荘厳華麗を極めていた。彼は国内の三十万の青年に動員令に対する準備を命じた。更に健全な国内の壮丁九十万人を国境と沿海戦の守備に充てた。なおその上に、彼はフラン・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・しかし大和絵以後の繊美な様式のみが伝統として現代に生かされ、平安期以前の雄大な様式がほとんど顧みられていないことは、日本画を真に偉大な未来へ導くゆえんではあるまいと思う。黄不動の線を凝視せよ。赤不動の色を凝視せよ。ここに日本画を現在の浪漫主・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・五 古来の偉人には雄大な根の営みがあった。そのゆえに彼らの仕事は、味わえば味わうほど深い味を示してくる。 現代には、たとい根に対する注意が欠けていないにしても、ともすればそれが小さい植木鉢のなかの仕事に堕していはしないか・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
・・・しかしすべての争闘は結局雄大な調和の内に融け込んでいる。それは相戦う力が完全な権衡に達した時の崇高な静寂である。尽くることなき力を人の心に暗示する深い沈黙である。そうして、この簡素な太い力の間を縫う細やかな曲線と色との豊富微妙な伴奏は、荘厳・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・この事がもしある芸術的天才の心裡に起こったならば、そこに何らか雄大な結晶物が生まれないではいないだろう。 考えてみると、古来の芸術的傑作には戦争に刺激せられてできたものが非常に多い。造形美術ではペルシア戦争後のアテナイの諸傑作などがその・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・に七人の雄大なる兄弟を画いた。物暗き牢獄に鉄鎖のとなりつつ十数年の長きを「道義」のために平然として忍ぶ。荘厳なる心霊の発現である。兄弟は一人と死に二人と斃る。愛する同胞の可憐なる瞳より「生命」の光が今消え去らんとする一瞬にも彼らは互いに二間・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫