・・・変化や朝夕の人の心にふさわしき器物の取なしや配合調和の間に新意をまじえ、古書を賞し古墨跡を味い、主客の対話起座の態度等一に快適を旨とするのである、目に偏せず、口に偏せず、耳に偏せず、濃淡宜しきを計り、集散度に適す、極めて複雑の趣味を綜合して・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・しかし、少くとも僕は、他人の夫婦の離合集散や恋愛のてんまつなどに、失敬千万な興味などを持つような、そんな下品な男でだけは無いつもりだ。じつに、なんにも、興味が無い。」 笠井氏は既に泥酔に近く、あたりかまわず大声を張りあげて喚き散らすので・・・ 太宰治 「女類」
・・・これと、前述のようなレヴュー映画の場合に生きた人間で作った行列の線の運動し集散するのとを比較して見ると、本質的に全く共通なものがある。ただ相違の点は、一方ではそれ自身には全く無意味な光った線が踊り子の役をつとめているのに、他方では一人一人に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・レヴューでは人間の集団で作った斑点や線条が舞台の上で離合集散いろいろの運動をする。あの斑点や線条の運動はなんの意味だかちっともわからない。しかしなんだかおもしろい。このレヴューからあらゆる不純なものをことごとく取り去ってしまったもの、ちぐは・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・しかし、この機構の背後には色々の人間がさまざまの用談をし取引を進行させており、あらゆる思惟と感情の流れが電流の複雑な交錯となってこの交換台に集散しているのである。 現象を記載するだけが科学の仕事だというスローガンがしばしば勘違いに解釈さ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
河豚 どんな下手が釣っても、すぐにかかる魚は河豚とドンコである。 河豚が魚の王で、下関がその産地であることは有名だが、別に下関付近でとれるためではない。下関が集散地になっているだけで、河豚は瀬戸内海はもちろん、玄海灘でも、ど・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・ 大変親愛なのは、宗達がそのように背景をなす自然を様式化して扱いながら、その前に集散し行動している人々の群や牛などを、いかにも生気にみちた写生をもとにしているところである。 眺めていると、きよらかな海際の社頭の松風のあいだに、どこや・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・例えば、アムステルダムの大市場は、世界の物資を集散して目を瞠らせる壮観を呈した。同時にその市場を運営していたアムステルダムの市民は、ルーベンス、レンブラントの芸術を生む母胎ともなった。ハンザ同盟に加っていたヨーロッパのいくつかの自由都市は、・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・田舎風な都会、一年の最高頂の時期は、罵声と殴り合いの合奏する巨額な金の集散、そのおこぼれにあずからんとする小人の詭計の跳梁、泥酔、嬌笑に満ち、平日は通俗絵入新聞が地方客に向って撒く文化を糧としつつ、ヴォルガ沿岸の農民対手の小商売で日暮してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・哲学者はこの世界が元子の離合集散に過ぎないこと、現世の享楽の前には何の恐るべきものもないことなどを答える。パウロはますます熱して永生の存在を立証する彼自身の体験について語り始める。物見高いアテネ人は――「ただ新しきことを告げあるいは聞くこと・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫