・・・今日の文化が、兎も角もこゝまで至ったのには、この向上生活のいたした集積ともいうべきです。政治に依る強権は、一夜にして、社会の組織を一新することができるでありましょう。しかし、一夜に人間を改造することはできない。人間を改造するものは、良心の陶・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・によって撮影を進行させ、出たとこ勝負のショットをたくさんに集積した上で、その中から截断したカッティングをモンタージュにかけて立派なものを作ることも可能であろうが、経済的の考慮から、そういう気楽な方法はいつでもどこでも許されるはずのものではな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・例えば地殻の一部分にしかじかの圧力なり歪力なりが集積したために起ったものであるという判断である。 これらの学説が仮りに正しいとした時に、更に次の問題が起る。すなわち地殻のその特別の局部に、そのような特別の歪力を起すに到ったのは何故かとい・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・そうしてその中に集積される材料にはことごとく防火剤が施されていたもののようである。 いずれにしても無批判的な多読が人間の頭を空虚にするのは周知の事実である。書物のなかったあるいは少なかった時代の人間のほうがはるかに利口であったような気も・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・前者は集積し凝縮し電子となりプロトーンとなり、後者は一つにかたまり合って全能の神様になり天地の大道となった。そうして両者ともに人間の創作であり芸術である。流派がちがうだけである。 それゆえに化け物の歴史は人間文化の一面の・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・思意的な生活感情は、そのような実感の吟味から表現されるとともに、あらゆる行動を行動のなかで消してしまわずそれを人生の歴史のうちに、生活の集積としてもたらして来る力となる種類のものである。 アランの言葉と云うと、その思意的な情感がうけ・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・科学の研究は、その方法において個人の才能の発揮さえも集積的な経過をとる。文学の作品がうまれる過程は、どんなに社会的であるにしろ個人的である。。だが、文学は、遂にはそこにとどまらないで社会的なものとして実在しつづける。古典文学が歴史に耐えて生・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ 二八年ころ、日本の進歩的社会科学者は、まだその研究の集積において豊富であるとはいえなかった。日本では社会科学そのものが、プロレタリア文学の前駆的な運動とともにうちたてられたばかりの時であったのだから。そのために、日本の社会発展の歴史の・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・現在は、もっとも端初的な段階での進歩的文化欲求さえ、特に地方にあっては、深い注意をもって評価され集積されなければならない。私は『鋲』『主潮』『関西文学』その他を見て編輯に従事している若い活動家が闘っているであろうさまざまの、今日の情勢独特の・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・それ故本を活々とした人間の努力の集積、それを最善につかって有益な結果をひき出す筈のものというような考えかたは、私としては随分後まで身につけなかった。 並べて見ているだけでよろこばしい亢奮を覚えるというような工合で、国民文庫刊行会で出版し・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
出典:青空文庫