・・・は『雨蛙それ故、この皮肉を売物にしている男がドンナ手紙をくれたかと思って、急いで開封して見ると存外改たまった妙に取済ました文句で一向無味らなかった。が、その末にこの頃は談林発句とやらが流行するから自分も一つ作って見たといって、「月落烏啼霜満・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・踏みつぶされた雨蛙の姿に似ていたようであった。自身のぶざまが、私を少し立腹させたのである。手袋も上衣もズボンもそれからマントも、泥まみれになっている。私はのろのろと起きあがり、頭をあげて百姓のもとへ引返した。百姓は、女給たちに取りまかれ、ま・・・ 太宰治 「逆行」
・・・「賤民の増長傲慢、これで充分との節度を知らぬ、いやしき性よ、ああ、あの貌、ふためと見られぬ雨蛙。」一瞬、はっし! なかば喪心の童子の鼻柱めがけて、石、投ぜられて、そのとき、そもそも、かれの不幸のはじめ、おのれの花の高さ誇らむプライドのみにて・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・むしろ、おまえの「雨蛙」のほうが幼い「落ち」じゃないのか。 いったい何だってそんなに、自分でえらがっているのか。自分ももう駄目ではないかという反省を感じたことがないのか。強がることはやめなさい。人相が悪いじゃないか。 さらにまた、こ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・しかるに、世の中には羞恥心の全く欠けた雨蛙のような男がたくさんいて、ちかごろ、「狂的なひらめき。」を見せたる感想断片が、私の身のまわりにも二三ちらばり乱れて咲くようになった。あたかもそれが、すぐれたる作家のひとつの条件ででもあるかのように。・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・死ねば天堂へ行かれる、未来は雨蛙といっしょに蓮の葉に往生ができるから、この世で善行をしようという下卑た考と一般の論法で、それよりもなお一層陋劣な考だ。国を立つ前五六年の間にはこんな下等な考は起さなかった。ただ現在に活動しただ現在に義務をつく・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 次の年ある日雨蛙がなめくじの立派なおうちへやって参りました。 そして、「なめくじさん。こんにちは。少し水を呑ませませんか。」と云いました。 なめくじはこの雨蛙もペロリとやりたかったので、思い切っていい声で申しました。「・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・ 栄さんがお湯で、アラ、と云って立ってゆくから、ナニときいたら青い雨蛙が青い葉の上で動いたのでびっくりした由。二人ともあんまり口もきかず、のびるだけ神経をのばして居ります。 いねちゃんが上野まで送ってくれました。汽車がカーブにかかる・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫