・・・前夜の夕刊に青森県大鰐の婚礼の奇風を紹介した写真があって、それに紋付き羽織袴の男装をした婦人が酒樽に付き添って嫁入り行列の先頭に立っている珍妙な姿が写っている。これが自分の和服礼装に変相し、婚礼が法事に翻訳されたのかもしれない。紫色の服を着・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・「今の汽車かね。青森まで行かなきゃ、仙台で止るんだろう」「仙台。神戸にはいつごろ着くんでしょう」「神戸に。それは、新橋の汽車でなくッちゃア。まるで方角違いだ」「そう。そうだ新橋だッたんだよ」と、吉里はうつむいて、「今晩の新橋・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・一九二六(、五、一九、〔以下空白〕五月十九日 *いま汽車は青森県の海岸を走っている。海は針をたくさん並べたように光っているし木のいっぱい生えた三角な島もある。いま見ているこの白い海が・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・彼女には、青森に甥がいた。今いる家は、町の家作持ちの好意で家賃なしであった。村にも、彼女より立派に縫物の出来る女は、数人いた。植村婆さんは、若い其等の縫いてがいやがる子供物の木綿の縫いなおしだの、野良着だのを分けて貰って生計を立てて来たので・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・一太が去年始めて青森から母親と出て来てこの部屋の家に住むようになったとき、一太はまだ廊下や庭のある家で体を動かす癖をもっていた。 昼寝して寝がえり打つ拍子にウームと、一太は襖を蹴って、足を突込んだ。母親は一太をぶった。一太が胆をつぶした・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・シベリアへ通弁。青森の大金持の男、信者、娘一人、後とりの後見もして欲しいから学問があって、人物の出来た人、 そこで、結婚ブローカーがあって、「それじゃいい人がありますっていうんですね、司教の息子それじゃ立派なもんだろうって云うんで先・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・そういう人が、何万人とあるわけである。青森市では、記載もれの市民大会が開かれ、市長以下責任者が退陣しなければならなくなった。長野の或るところでは、役場の責任者が、責任感から行方不明となり、自殺したかもしれないと云われている。 このような・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・待つ列車は青森発東北本線の上りで、夜の九時すぎにつく予定であった。 大混雑をぬけて出口に立ちつくしたが、その前の信越線、八時二十分からがいつ迄経っても入って来ない。改札係の板の上には、時間表があり、定刻と、おくれて到着した各列車の時刻と・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・東北青森地方はひどい飢饉です。 そういうことはちょいと新聞にのるだけであとは、どっちを向いても「満蒙」「満蒙」です。われわれの考えるべきこと熱心になるべきことは満蒙事件しかないようですが、それならそれでいい。そもそも満蒙について、白木屋・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・東京、大阪が最も密度濃いのは当然として、百世帯加入数辛うじて六以下という、ブランクによって示されている地方は、日本に於て、東北では青森、岩手の二県と、九州の突端の二つの県宮崎、鹿児島、琉球等のみである。 工業部門の職業でのラジオ加入は、・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫