・・・いちいち例をあげてその相違をあげると面白いのだが、私はいまこの原稿を旅先きで書いていて手元に一冊も文献がないので、それは今後連続的に発表するこの文学的大阪論の何回目かで書くことにして、ここでは簡単に気づいたことだけ言うことにする。 宇野・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・が、しかし考えてみれば、人生は面白いもの、あの犬の不幸に遭った日は俺には即ち幸福な日で、歩くも何か酔心地、また然うあるべき理由があった。ええ、憶えば辛い。憶うまい憶うまい。むかしの幸福。今の苦痛……苦痛は兎角免れ得ぬにしろ、懐旧の念には責め・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・変な云い方ですがこのなあのあはOの「すべり台面白いぞお」のおと釣合っています。そしてそんな釣合いはOという人間の魅力からやって来ます。Oは嘘の云えない素直な男で彼の云うことはこちらも素直に信じられます。そのことはあまり素直ではない私にとって・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・て、さて砂山に登ると、思の外、北風が身に沁ので直ぐ麓に下て其処ら日あたりの可い所、身体を伸して楽に書の読めそうな所と四辺を見廻わしたが、思うようなところがないので、彼方此方と探し歩いた、すると一個所、面白い場所を発見けた。 砂山が急に崩・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・それが文明というものの面白いところである。正面から向かってくれば、男子が女性をふみにじるのはわけはない。しかし精神の力、心霊の感化力で訴えられると男子は兜をぬがずにはいられない。それでもなお女性をふみにじる者は獣だ野蛮人だ。そういう者は男性・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・複雑多岐でその生活を見ているだけでもなか/\面白い。このなかに身をひそめているのはひそめかたがあると思われるのである。 二年、三年、田舎の生活に年期を入れてくるに従って、東京から送られる郵便物や、雑誌の数がすくなくなって、その郵便物の減・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・そしてまた誰か他人の所有に優るところの面白い、味のある、平凡ならぬ骨董を得ることを悦ばぬ者があろう。需むる者が多くて、給さるべき物は少い。さあ骨董がどうして貴きが上にも貴くならずにいよう。上は大名たちより、下は有福の町人に至るまで、競って高・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ だが、さすがにこの赤色別荘は、一銭の費用もかゝらないし、喜楽的などころか、毎日々々が鉄の如き規律のもとに過ぎてゆくのだ――然し、それは如何にも俺だちにふさわしいので、面白いと思っている。「さ、これから赤色体操を始めるんだぞ。」・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・あんなことをして皆を笑わせた滑稽が、まだまだ自分の気の確かな証拠として役に立ったのか、「面白いおばあさんだ」として皆に迎えられたのか、そこまではおげんも言うことが出来なかった。とにかく、この蜂谷の医院へ着いたばかりに桑畠を焼くような失策があ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・どこから手に入れて来るのか、名の知れぬ同人雑誌をたくさん集めて、面白いなあ、うまいなあ、と真顔で呟きながら、端から端まで、たんねんに読破している。ほんとうは、鏡花をひそかに、最も愛読していた。末弟は、十八歳である。ことし一高の、理科甲類に入・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫