・・・ かような事を、くどく書きつづけるのは、繁忙な職務を御鞅掌になる閣下にとって、余りに御迷惑を顧みない仕方かも知れません。しかし、私の下に申上げようとする事実の性質上、閣下が私の正気だと云う事を御信用になるのは、どうしても必要でございます・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・今天下の士君子、もっぱら世事に鞅掌し、干城の業を事とするも、あるいは止むをえざるに出ずるといえども、おのずからその所長所好なからざるをえず。ゆえにかの士君子も、天与の自由を得て、その素志を施すものというべし。また我が党の士、幽窓の下におりて・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・予は一片誠実の心を以て学問に従事し、官事に鞅掌して居ながら、その好意と悪意とを問わず、人の我真面目を認めてくれないのを見るごとに、独り自ら悲しむことを禁ずることを得なかったのである。それ故に予は次第に名を避くるということを勉めるようになった・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫