・・・愛のために孟子の母はわが子を鞭打ち、源信の母はわが子を出家せしめた。乃木夫人は戦場に、マリアは十字架へとわが子を行かしめたのも、われわれはこれを母性愛に対する義務の要求と見ずに、道と法とに高められ、照らされたる母性愛と見たい。それだけの負荷・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。メロスほ・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・疲れたる膝栗毛に鞭打ちてひた急ぎにいそぐに烏羽玉の闇は一寸さきの馬糞も見えず。足引きずる山路にかかりて後は人にも逢わず家もなし。ふりかえれば遥かの山本に里の灯二ッ三ッ消えつ明りつ。折々颯と吹く風につれて犬の吠ゆる声谷川の響にまじりて聞こゆる・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ 昔あ年貢が不足すりゃ鞭打ちですんだ。コンムニストは鞭の代りに書付を出しくさる! そして監獄だ! フーッ!」 土地を農民へ。ということを階級的意識の低い、農民のあるものは、本質を全く反対に考えていた。土地を皆に分け取りにして、取った土地・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫