・・・この一事を、深く深く思ったとき、私たちの胸に湧く自分への激励、自分への鞭撻、自分への批判こそ一人一人の女を育て培いながら、女全体の歴史の海岸線を小波が巖を砂にして来たように変えてゆく日夜の秘められた力であると思う。〔一九四〇年六月〕・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 私は、米国婦人の伸張された権利と、知識との価値を肯定すると共に、其等は悉く、彼女等が、人類として愛され、人類として尊重され鞭撻されるからだと申さずには居られないのでございます。 けれども、私が斯う申すと、きっと或人は反駁して、「私・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ われわれプロレタリア文学の仕事に従う者が、同志小林の業績によって深い鞭撻をうけるのは正にこの点である。彼が進み行く労農大衆の先頭に身を挺して立ち、その闘争の一部として小説を書きつづけて行った、この覚悟が同志小林を真のボルシェヴィク作家・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・わたしの理解するところでは、小林多喜二的身がまえというどちらかというと舌足らずな表現は、作家小林多喜二のあの精力的な、多面的な活動意慾と、解放運動の刻々の進展につれて、容赦なく自身を鞭撻しその課題に献身した、男らしいそしていかにも階級的芸術・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 若い一人の女性として、彼女の求めたものは独立の生活と自由と、事業、いつも自分を鞭撻する目的でした。 彼女には伯母や、美人の従姉のレティシアのように、よい結婚ばかり当にしている心持が我慢出来ませんでした。 天性数学的な頭脳を持ち・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・その点で、作者のたゆみない鞭撻と努力とが生活の全面においてなされることを、よろこびをもって期待するのである。 もし私に煙草がふかせたら、きっとここいらで一服火をつけ、さておもむろににやにやしたであろうような情感が、今私の心のうちを去来し・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ サロンに入選しても、マリアはますます自分の画の不満を自覚してきびしく自分を鞭撻しているのに、家族の者がマリアの体を気づかう姑息な女々しい心遣いはマリアを立腹させるばかりである。マリアの耳では目醒時計の刻む音がきこえなくなった。過去四年・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・私はそれが成長することを祈り、また自己鞭撻によってその成長を助けることに努力する。これらのことのほかに、私は自己を最も好く活かす方法を知らない。――私は自己の内のある者を滅ぼすのが直ちに自己を逃避することになるとは思わない。私は自分の上に降・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫