・・・支那人のする水芸そのものは、黒紋付に袴の股立ちをとった大神楽のやることと大して違いはないのだが、その支那人は、派手な三味線に合わせ、いざ芸当にとりかかる時、いかにも支那的音声で、 ハオ!とか何とか掛声をかけると同時に一二歩進み、ひょ・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・引きしまって、ぼやついたところのない音声と、南方風なきれの大きい眦。話につれて閃く白眼。その顔のすべての曲線が勁く、緊張していた。博い引例や、自在な諷刺で雄弁であり、折々非常に無邪気に破顔すると大きい口元はまきあがり、鼻柱もキューと弓なりに・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・その恰幅と潮風に鍛えられた喉にふさわしい低い幅のある荘重な音声で草稿にしたがって読まれる演説は、森として場内の隅々まで響いた。どことなしお国の訛が入る。 つづいて桜内蔵相。内容はともかくとしてやはり声はよく耳に入った。畑陸相が登壇すると・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
私が見境いなくものを読みたがり出した頃は、山田美妙の作品など顧られない時代になって居た。一つも読んだことはないが、感情の表現を大体音声や言葉づかいの上に誇張して示したらしい。雲中語の評者たちから、散々ひやかされて居るが、同・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
出典:青空文庫