・・・それでもマダ完結とならないので以下は順次に巻数を追うことにした。もし初めからアレだけ巻数を重ねる予定があったなら、一輯五冊と正確に定めて十輯十一輯と輯の順番を追って行くはずで、九輯の上だの下だの、更に下の上だの下の下だのと小面倒な細工をしな・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ガタンガタンという音が前方の方から順次に聞えてきて、列車が動きだした。そうなってしまうと、今度はハッキリ自家へ真直に帰らなかったことが、たまらなく悔いられた。取り返しのつかないことのように考えられた。龍介は停車場の前まで戻ってきてみた。待合・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・出発点における主題に含まれているものを順次にその構成要素に解きほごして行ってその各部の具体的設計を完成する過程である。 このようにしてできた設計が完成すれば次には、これらの各部分が工人の手によって実物に作り上げられなければならない。すな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ さて、映写が始まって音楽が始まると同時に、暗いスクリーンの上にいろいろの形をした光の斑点や線条が順次に現われて、それがいろいろ入り乱れた運動をするのであるが、全く初めての経験であるからただ一度見ただけでは到底はっきりした記憶などは残り・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・そうして一つのものの余響はやがて次の声の中に没し、そういう事が順次に引き続いていつまでも繰り返される。それがちょうどたとえば仕掛け花火か広告塔のイルミネーションでも見るような気がしてならないのである。つまり身にしみるような宣伝はわりに少ない・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・さて、その講評の日に、順次に他の問題について説明された後に、この半陰影の問題に移った。「諸君の中にこういうことを書いた人がある」と言って、自分の提出した答案の所説を述べ、「これは、なかなかうまい説明であると思う。が」と言ってちらりと自分のほ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・の見当をつける。順次かくのごとくして、できるならばまた、世界の各方面から出発して、同じようにして、それぞれの鎖を――もちろんそういう鎖が存在するとの作業仮設のもとに――たぐって行く。もし多くの人の信ずるであろうごとく、この数々の鎖が世界のど・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・浴場へ行って清澄な温泉に全身を浸し、連日の疲れを休めていると、どやどやと一度に五、六人の若い女がはいって来て、そこに居たわれわれ男性の存在には没交渉に、その華やかな衣裳を脱いで、イヴ以来の装いのままで順次に同じ浴槽の中に入り込んで来た。霊山・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
・・・しかし近来の連作と見らるるものの中には事件の進行を時間的に順次に描いて行く点で、たとえば活動映画的とでもいうべきものもある。そうして最後にあげた一例になると、もはや事件の報告的進行ではなくて、印象や感覚の旋律的な進行になっていて、そうしてま・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 翌日自分は昨夜降りた三門前で再び電車を乗りすて、先ず順次に一番端れなる七代将軍の霊廟から、中央にある六代将軍、最後に増上寺を隔てて東照宮に隣りする二代将軍の霊廟を参拝したのである。この事は巳に『冷笑』と題する小説中紅雨という人物を借り・・・ 永井荷風 「霊廟」
出典:青空文庫