・・・ 何とかいう芝居小屋の前に来たら役者に贈った幟が沢山立って居た。この幟の色について兼ねて疑があったから注意して見ると、地の色は白、藍、渋色などの類、であった。 陶器店の屋根の上に棚を造って大きな陶器をあげてある。その最も端に便器が落・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・あしゃア実は爰処で陶器をやるつもりなんだが。」「陶器とはなんぞな。」「道後に名物がないから陶器を焼いて、道後の名物としようというのヨ。お前らも道後案内という本でも拵らえて、ちと他国の客をひく工面をしてはどうかな。道後の旅店なんかは三津の浜の・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・ 陶器の趣味についても同様でした。やっぱり逸物を手に入れるには金がいる。そこまでは手が届かぬ。それで晩年は見物だけでした。亡くなる前の年の秋ごろでしたか壁懸の展覧即売会がありました。その中で、優れたものを当時建築が完成しかけていた某邸の・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・ 書斎の方に座って、陶器の話などした。私の父がこの頃少し凝りかけていたので、自然そんな方面に向ったものと見える。そんな時も、氏は元気よい話手であった。そして、日本画壇の、所謂大家というものに対して、率直な不満を洩した。平福氏の画が好きな・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・ ○自分とT先生との心持 ◎敏感すぎる夫と妻 ◎まつのケット ◎本野子爵夫人の父上にくれた陶器、 ◎常磐木ばかりの庭はつまらない。 ――○―― Aの言葉の力 ◎或こと・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・作品についても同じ二様の心持が私の内に働いていた。陶器や書籍店の話が出て、私は Gaugh? のカタログを翌日送って上げた。 その他公開の席でちょいちょい会うきりで、その俥に乗って田端の坂を登って行った時以上私の友としての心持は進み・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・ どこの陶器か。火の坑から流れ出た熔巌の冷めたような色をしている。 七人の娘は飲んでしまった。杯を漬けた迹のコンサントリックな圏が泉の面に消えた。 凸面をなして、盛り上げたようになっている泉の面に消えた。 第八の娘は、藍染の・・・ 森鴎外 「杯」
・・・ 建築の出来上がった時、高塀と同じ黒塗にした門を見ると、なるほど深淵と云う、俗な隷書で書いた陶器の札が、電話番号の札と並べて掛けてある。いかにも立派な邸ではあるが、なんとなく様式離れのした、趣味の無い、そして陰気な構造のように感ぜられる・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・燗をなすには屎壺の形したる陶器にいれて炉の灰に埋む。夕餉果てて後、寐牀のしろ恭しく求むるを幾許ぞと問えば一人一銭五厘という。蚊なし。 十九日、朝起きて、顔洗うべき所やあると問えば、家の前なる流を指さしぬ。ギヨオテが伊太利紀行もおもい出で・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・その愛が酪駝の隊商にも向かえば、梅蘭芳にも向かい、陶器にも向かえば、仏像にも向かう。特に色彩と輪郭と音響とは、彼から敏感な注意をうける。この心の自由さと享楽の力の豊かさとが、『地下一尺集』の諸篇をして、一種独特な、美しい製作たらしめるのであ・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫