・・・僕が考えには武蔵野の詩趣を描くにはかならずこの町外れを一の題目とせねばならぬと思う。たとえば君が住まわれた渋谷の道玄坂の近傍、目黒の行人坂、また君と僕と散歩したことの多い早稲田の鬼子母神あたりの町、新宿、白金…… また武蔵野の味を知るに・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・にまでひろがるところの一般の倫理的なるものへの関心と心得とはカルチュアの中心題目といわねばならぬ。人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格という語をかたちづくる中核的意味でなければならぬ。私はいかなる卓越した才能あり、功・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・宇宙と自己、社会共同体と自己、自己の使命的仕事、人類愛ならびに正義の問題等は恋愛よりもさらに重き、公なる題目として関心されていなければならない。恋愛よりもより強く、公なるイデーによって、衝き動かされないことは男子の不面目である。恋愛をもって・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 明治の諸作家が戦争を如何に描いたか、戦争に対してどんな態度を取ったかは、是非とも研究して置かなければならない重要な題目である。若し戦争について、それを真正面から書いていないにしても、戦争に対する作家の態度は、注意して見れば一句一節の中・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ さてその智恵の無い談話の題目は「曲亭馬琴の小説とその当時の実社会」というのでございます。題の付けようが少し拙いか知れませんが、私の申し上げてみようというのは、その当時、即ち馬琴が生存して居た時代との関係が、どんな工合であろうかという点・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・その中には小説の書き掛けがあったり、種々な劇詩の計画を書いたものがあったり、その題目などは二度目に版にした透谷全集の端に序文の形で書きつけて置いたが、大部分はまあ、遺稿として発表する事を見合わした方が可いと思った位で、戯曲の断片位しか、残っ・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ 私はこの玩具という題目の小説に於いて、姿勢の完璧を示そうか、情念の模範を示そうか。けれども私は抽象的なものの言いかたを能う限り、ぎりぎりにつつしまなければいけない。なんとも、果しがつかないからである。一こと理窟を言いだしたら最後、あと・・・ 太宰治 「玩具」
・・・そのような恥かしくも甘い甘い小市民の生活が、何をかくそう、私にもむりなくできそうな気がして来て、俗的なるものの純粋度、という緑青畑の妖雲論者にとっては頗るふさわしからぬ題目について思いめぐらし、眼は深田久弥のお宅の灯を、あれか、これか、との・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ 時々アインシュタインに会って雑談をする機会があるので、その時々の談片を題目とし、それの注釈や祖述、あるいはそれに関する評論を書いたものが纏まった書物になったという体裁である。無論記事の全責任は記者すなわち著者にあることが特に断ってある・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・何かある題目に関して広く文献を調べようという場合にはいろいろなエンチクロペディやハンドブーフという種類のものはなくてならない重宝なものであるが、少し立ち入ってほんとうの事が知りたくなればもうそんなものは役に立たない。つまりは個々のオリジナル・・・ 寺田寅彦 「案内者」
出典:青空文庫