・・・御話をする題目はちゃんと東京表できめて参りました。 その題目は「現代日本の開化」と云うので、現代と云う字は下へ持って来ても上へ持って来ても同じ事で、「現代日本の開化」でも「日本現代の開化」でも大して私の方では構いません。「現代」と云う字・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ しかるに各課担任の教師はその学問の専門家であるがため、専門以外の部門に無識にして無頓着なるがため、自己研究の題目と他人教授の課業との権衡を見るの明なきがため、往々わが範囲以外に飛び超えて、わが学問の有効を、他の領域内に侵入してまでも主・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・日常的題目を日常的に論じた彼の『エッセー』の中には、時に大げさな体系的哲学以上の真理を含んでいる。歴史的実在の世界は日常的世界である。彼の描いた自己は日常的世界において生きぬいた自己である。しかしそこからはすぐパスカルの『パンセー』の世界に・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・考えてはいたらしいが、その考の題目となっていたものは、よし、その時私がハッと気がついて「俺はたった今まで、一体何を考えていたんだ」と考えて見ても、もう思い出せなかった程の、つまりは飛行中のプロペラのような「速い思い」だったのだろう。だが、私・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ことにその題目が風月の虚飾を貴ばずして、ただちに自己の胸臆をしくもの、もって識見高邁、凡俗に超越するところあるを見るに足る。しこうして世人は俊頼と文雄を知りて、曙覧の名だにこれを知らざるなり。 曙覧の事蹟及び性行に関しては未だこれを聞く・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ゆえに夏季の題目には積極的なるもの多し。牡丹は花の最も艶麗なるものなり。芭蕉集中牡丹を詠ずるもの一、二句に過ぎず。その句また 尾張より東武に下る時牡丹蘂深くわけ出る蜂の名残かな 芭蕉 桃隣新宅自画自讃寒からぬ露や牡・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ これらの題目のうちで、過去二十年間、日本の婦人雑誌が扱ったことのないというトピックが、只の一つでもあるだろうか。大衆的な某誌は、その反動保守的な編輯方針の中で、色刷り插絵入りで、食い物のこと、悲歎に沈む人妻の涙話、お国のために疲れを忘・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・私の用事は、前に中野さんと某氏を訪ねたとおなじ題目であった。文芸家協会は、大正年代に組織され、古い歴史をもつ日本で唯一の文学者の集団である。理事というところには、日本の代表的著述家・作家が顔をならべている。これらの人々の顔ぶれの世俗的に賑や・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・しかし驚くべき事は三十歳の青年が自然主義の初期にすでにゾラを追い越しモウパッサンの先を歩いていたことである。題目とねらい所は両者ほとんど同じで、構図さえも似かよっているが、ゾラの百ページを費やす所は彼の筆によればわずかに二三十ページで済む。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・『三四郎』『それから』『門』『彼岸過迄』『行人』などが右の題目の開展であることは明らかである。『三四郎』に芽ざして『それから』に極度まで高まった恋愛の不可抗の力は、ついに正義を押し倒した。作者はこの事を可能ならしめるために享楽主義者を主・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫