・・・の茶番がかった芝居には、それでも浅草という特種な雰囲気が漂っているものもたまには見られない事もなかったが、今ではそういう写実風の妙味は次第に失われて、脚色の波瀾と人物の活動とを主とする傾が早くも一つの類型をなしているようになった。劇場前に掲・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・という一冊の本が目につき、目次を見ると、文章の類型と作家という章に谷崎潤一郎氏と志賀直哉氏という項があり、今度の本の著者波多野完治氏が当時その研究を一部発表されたものであったことがわかったのであった。 新しくされた興味をもって、その本の・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ プロレタリア作家は、今まで充分党に近くあったであろうか? プロレタリア作家は、階級の心理をもっと把握せよ! 類型から脱け出して人間を描け! ソヴェト同盟の革命的労働者は、一九一七年以来、プロレタリアートの生産技術を向上させようとし・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・娘時代から結婚時代へ、妻、母と類型的な生活にその日その日を送る女、其処から生れる芸術も自然、型の中で反省し得られる程度にしか出来ません。従って生活感情の真髄が狭い心の中の狭い体験が多い関係から、女性の作り出す創作には本当にユニックなものが乏・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・去年の秋の作品であるが、この粗大な、民族的類型化を卓抜な科学者であるという沼田博士に云わしめているのである。アメリカに移民として働いている日本人の不正入国をしたものが何より恐れているのは、アメリカ人であるか、ニグロであるか、或は同じ日本人で・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 必ずしも、男の子は汽車で女の子は向日葵とは先生の方から大人の類型できめてくれるのではない。 字のかわりに絵が当分は規則の合いじるしだ。 五つ、六つの組では、もうそろそろソヴェト市民の自治がはじまる。――組の当番が出来て、たとえ・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・それだけ限界は日常から拡大され、群としての人間精神の類型との対決の時期に立ち到っているのである。 広津和郎の「懐疑に耐える精神の強靭性」の破たん そういう統一や調和が単純に見えるひとは、そのような統一や調和をもって 精神が立ち向わ・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・、リアルで精彩にとんだ描写とくどくどしく抽象的な説明との作者に自覚されていない混同、比喩などにはっきり現われている著しい古典趣味、宗教臭と近代科学との蕪雑なせり合い、現実的な観察が次第に架空的誇大的な類型へ昇天する奇怪な道ゆきが生じたのであ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 従来文学が中央へばかり集ってしかもそこで類型化し衰弱しているように見える昨今、文学の地方分散の情勢が招来されつつあることは、朝鮮・満州などの文学的動勢に対する中央の文壇の関心を見ても、九州文学、関西文学などの活溌さを見ても、将来の文学・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・と同じ類型に属するものとすれば、それは、杜撰であろうと私は考える。 主人公の持つ方向と、作者の意企とは、それらの作品とむしろ対蹠的なものである。然し作品として見れば失敗の部に属すものとなっている要因を、その社会的根源にまで遡って見ると、・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
出典:青空文庫