・・・それにも拘らず、長篇書き下し小説の流行はかつてない勢で出版界を風靡した。慌しく忙しく流行作家は長篇を書き下しつづけたのであったが、この商業的な文学の隆昌が、昭和十四年度にははっきり文学のインフレ景気という名称を蒙って、出版界の賑かさに反比例・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・今日、彼等の社会を風靡していると云われる物質主義、精力主義、並に実利主義は、未開の而も生産力の尽くるところを知らない自然に向って、祖先が、本能的に刺戟された一方面の発育であると云えるのではありませんでしょうか。 源泉は遠い遠い彼方迄遡る・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・は一世を風靡したが、硯友社の戯作者的残滓に堪え得なかった北村透谷は、初めて日本文学の上にヒューマニティの提唱をもって立ち現れた。高く、広く、輝かしく飛翔せんと欲する自我、人間性は、ロマンチシズムの焔に照らされて、通人の妥協的屈服的世界観を拒・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・をこしらえたのは、日露戦争の後、日本の思想界文学界を風靡しはじめた自然主義思想に対して、封建的な習慣や馬琴風の勧善懲悪小説の存在を擁護しようとした結果であった。「文芸委員会」は美術展覧会の裸体画を撤回させ「モリエールの作品が孝行の本義に背く・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫