・・・猿や鳥などが、その食料とするいろいろの昆虫の種類によって著しい好ききらいがあって、その見分けをある程度までは視覚によってつけるらしいということが知られている。それでたとえばわれらの祖先のある時代に芋虫や毛虫を食ってひどい目に会ったという経験・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・焼けた区域に接近した方面のあらゆる食料品屋の店先はからっぽになっていた。そうした食料品の欠乏が漸次に波及して行く様が歴然とわかった。帰ってから用心に鰹節、梅干、缶詰、片栗粉などを近所へ買いにやる。何だか悪い事をするような気がするが、二十余人・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・場所によっては水くみだけでもなかなかの大仕事である。食料は米味噌、そのほかに若布切り干し塩ざかななどはぜいたくなほうで、罐詰などはほとんど持たない。野菜類は現場で得られるものは利用する。カラフトではいろいろな植物を片端から試験的に食ってみた・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・北方の大阪から神戸兵庫を経て、須磨の海岸あたりにまで延長していっている阪神の市民に、温和で健やかな空気と、青々した山や海の眺めと、新鮮な食料とで、彼らの休息と慰安を与える新しい住宅地の一つであった。 桂三郎は、私の兄の養子であったが、三・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・やはり食料品、雑貨店などの中で、薬屋が多く、次は下駄屋と水菓子屋が目につく。 左側に玉の井館という寄席があって、浪花節語りの名を染めた幟が二、三流立っている。その鄰りに常夜燈と書いた灯を両側に立て連ね、斜に路地の奥深く、南無妙法蓮華経の・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・その要領は人類の居住すべき世界の土地は一定である、又その食料品は等差級数的に増加するだけである、然るに人口は等比級数的に多くなる。則ち人類の食料はだんだん不足になる。人類の食料と云えば蓋し動物植物鉱物の三種を出でない。そのうち鉱物では水と食・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・けれども、時局の要求する生産拡充への大努力によって重工業、化学、食料、織縫などには、大量に女の力が吸収されつつある。全国に十万人も熟練工が不足を告げているという事実は、今日の大問題とされているのである。処々の大工場、実務学校などで熟練工の養・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・それだのに、今日世界の大部分がひどい食料制限をして、私たちはさつまいもを買うのにも苦心している。そこにも生活の文化の大きい問題がある筈ではなかろうか。 このように、現在私たちの文化の実体は益々世界的な関係で充たされて来ているのであるけれ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 勿論我々のトランクの中に そのデリケートにして白い東方の食料品は入れられてない。自分は青葱入のオムレツをたべて恢復した。零下十五度のモスクで牝鶏は卵を生まない。――から木箱に入った卵が来る。 一年目に又病って、今思い出すものは日本・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・持って居る様では有るけれ共、内実は、まるでロシアの農奴の少し良い位で地主の畑地を耕作して、身内からしぼり出した血と膏は大抵地主に吸いとられ、年貢に納め残した米、麦、又は甘藷、馬鈴薯、蕎麦粉などを主要な食料にして居るのである。 小半里離れ・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫