・・・であったらその意味は私にはかえって呑み込みやすく、その効果も見当がつくような気がする。 世の中の人の心は緊張と弛緩の波の上に泛っている。正と負の両極の間に振動している。「善行日」ばかりを奨励するのも考え物ではあるまいか。少なくとも「・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・十七、八年の間かじりつづけ、呑み込みつづけて来た知識のどれだけのプロセントが自分の身の養いになっているかと考えてみても、これはちょっと容易には分かりかねる六かしい問題である。しかし、ともかくも、学校で教わったことの少なくも何十プロセントは綺・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・可哀相に、何も知らねえ奴が、棍棒を飲み込みでもしたように、叩き出されかけているこったろう。蛙を呑んだ蛇見たいにな」 彼は、拷問の事に考え及んだ時、頭の中が急に火熱るのを覚えた。 そのために、彼が土竜のように陽の光を避けて生きなければ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ 雄鴨は小虫を一匹飲み込みながら、卵色の足を浮かせてもう一度、大きな大きな羽ばたきをして、雌鴨の小さい茶色の頭を擽った。 二羽は此上ないよろこばしさに胸をワクワクさせながら歩いた。 自分達の周囲には、不幸なものや、恐ろしい目・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
出典:青空文庫